初めての◯◯

『初めての場所』(まもうさ)

 私とまもちゃんは十番商店街を歩いていた。
 ふと立ち止まる彼に続いて見上げると、『OSA'p』___なるちゃんちの宝石店があった。
「ここ、さ。覚えてるか? 」
「もっちろん!私が初めて妖魔を倒した記念すべき場所!そしてそして、怪盗ルパンみたいな素敵な仮面の男の人に出会った場所♡ 」
「へー 」
目に見えて拗ねちゃうまもちゃんに、ありゃりゃと反省する。
「も!あるけどー!私が初めてまもちゃんに出会った場所♡♡ 」
意地悪してごめんねまもちゃん!と続けると、「ん」って頭をぐりぐり撫でられた。
まもちゃん耳赤いなぁ、ぎゅってしたいなぁ。
私は次の瞬間、道のど真ん中でまもちゃんの胸に飛び込んで思いっきり抱きしめた。
「忘れる訳ないよ。だってあの時のドキドキした気持ち、今もずーっと心の中に残ってるもん 」
「ドキドキしてたのか? 」
「うん 」
「30点の答案用紙投げ付けてしかもそれを見られたから? 」
もう、まもちゃん!
私はイジワルーって彼をポカポカ叩いたけれど、さっきの仕返しだって子どもみたいに笑うものだからドキっと胸が鳴った。私ってまもちゃんに出会った頃から今まで、ずーっとドキドキしっぱなしだな。でも仕方がないじゃない。色んな彼を知るたびに『好き』がどんどん大きくなっていくんだもん。

出会った形は確かにお互いサイアクだったのに、今はこんなに楽しくて、心の中が温泉に入ってるみたいにポカポカする。
そっか。これが___
「うさ、ちょっと寄っていかないか? 」
そう店を指差しながら言う彼にぽやぽやと緩んでいた気持ちがはっとなる。
「うんいいよ!まもちゃん新しいピアスとか買うの?片側だけピアスとかお洒落だよね 」
「いや、そうじゃなくて。俺は無くてもいいかなって思ったんだけど、一緒の指輪とか……「ペアリングー?! 」
頭をかきながら小声で言う恋人に食い気味に返してしまった。もーまもちゃんてば!なくてもいいかなーなんて言うもんじゃないよ?まあこれでも長い付き合いだから、照れてるだけってうさこは分かってますけどね。うふっ私ってばデキる奥さん♡(まだ結婚してないケド!)
「うん、まあそう言う感じの 」
嬉しいー!ってまたさっきより強く抱きつく私を優しく撫でてくれる大きな手。私はその手を取って自分の頬に持ってくると見上げて聞いた。
「でも何で今日突然? 」
「え? 」
顔を背けてしばらく黙った彼は、答えを待つ私の肩を優しく引き寄せて「いいから入るぞ 」とエスコートした。
いちいちドキドキしてしまう私。そして店長、なるちゃんのママの熱烈な歓迎に、ほんの少しの疑問はあっという間に消えていってしまった。


その日の夕方。
たくさん愛し合ったあと、まもちゃんの大きな手を握って、彼の金色に光る指輪と、私の薬指に収まる同じデザインの、小さなダイヤも入っているピンクゴールドの指輪とを翳してふふっと笑う。
「うさ 」
そんな私の頬にキスを落とすまもちゃんもとても柔らかな瞳で私を見つめている。
「しあわせだなぁ 」
ふわふわと積み重なっていくお砂糖みたいに甘くて溶けちゃうみたいなこの気持ち。宝石店の前でも思った気持ちが私の口から零れ落ちた。
まもちゃんは俺もだよ、と小さな小さな声で言った後、大きな想いを込めたキスをくれる。
「指輪ありがとう」
「ああ 」
「ねえ、どうして今日?クリスマスや誕生日でもないし、入学祝い?でもないよね? 」
私はこの春高校生になったけれど、ペアリングを買うのは何となくそういうイベントとは違うかなって。
色々な気持ちが満たされると昼間の疑問がまた湧き上がってきて聞いてしまった。
「……た日だから 」
「え? 」
まもちゃんは起き上がって私を囲うように覆い被さってくると、蒼い目を揺らしてぐっと唇を引き結んだ後、目元を少しだけ赤くしながら教えてくれた。

「今日は……二年前、俺とうさがあの場所で初めて会った日だから 」

出会った時のことを大切に、全部覚えてくれていた彼に胸がいっぱいになる。だから大好きな名前を呼ぼうとしたのに、彼からの深いキスに飲み込まれてしまった。
キスする一秒前、もの凄く赤くなっていたまもちゃんの顔が頭から離れなくて、私はドキドキを止めることもできずにもっともっととキスを強請ってしまう。

上がる息の中、薬指の指輪にキスした彼が余りにも綺麗で、涙でぼやけた視界の中で今度こそ大好きなその名を呼んだ。



おわり
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