初めての◯◯
『初めての強盗犯確保』(ネフまこ)
平日の昼下がり。まことはたまたま休講となり、元々空いていた晃と数ヶ月ぶりにデートしていた。
「仕事始めてからは晃も忙しいし、こうして昼に出掛けるのって久しぶりだよな。」
「おう!今日はとことん楽しもうぜ。」
「うん!」
まことは晃に大きな掌で頭をわしわし撫でられて向日葵が咲いたみたいに笑った。今日は髪を下ろしているせいかいつもと違って雰囲気もふわふわしていている。
(やべ、めっちゃキスしたい)
恋人の史上最強に可愛い笑顔という心の栄養剤を大量に投与された晃はイチャイチャモードな思考に流されそうになるが、ここは人で賑わう十番街。
今は手を繋ぐだけになんとか留めた。
男の欲望で女を恥に晒しちゃならねえ!という彼なりの信念である。
付き合い始めはまことがそばにいる事が嬉しすぎて随分とストレートにスケベ発言をしまくっていた晃だが、二年経過して成長した自分の精神を心の中で拳を作って褒め称えていた。
えらいぞ!俺!!といった具合である。
まことが短大に進学してから同棲をしている二人だが、晃が大学を卒業してからは都内でも有数の植物園の従業員として働いている為毎朝早く出ている。こうして昼に仕事が上がる事も月に何度かあるがそれがまことの予定と合うかと言えば、例えるなら初詣のおみくじで大凶を引くよりも難しかった。
軍資金を下ろしに銀行へ向かった先であんな事が起こったのは、やはりそのごく稀な確率という悪戯がそうさせたのかもしれない。
「これでよしっと。じゃあ行くか!」
先にATMを使い終わっていたまことにそう声をかける晃だったが彼女が戦闘時の様な視線で一点を見つめている姿にハッとなる。そして彼もすぐに神経を研ぎ澄ませてまことの前に立った。
「晃、なんだかあいつら様子がおかしい。」
背後からのまことの言葉が終わるのと同時にこの場にそぐわない攻撃的で派手な音が鳴り響いた。
ダダダダダダンッ
「今すぐ三千万用意しろっっ!!騒いだら殺す!!」
銀行内は途端にパニックとなり叫ぶ者、しゃがんで震える者、中にはATMの前で財布を握りしめたまま呆然としている者もいた。
事が起こっているATMの奥にある窓口コーナーの行員は青ざめながらも騒ぎ立てる事なく手を挙げて立ち上がっている。
怒鳴り金を要求した男はサバイバルナイフを持ち、サバゲーにも使用する様なエアガンを撃った男がその後ろで辺りを威嚇し、もう一人は大きな袋を抱え、その片手には小型のナイフを携帯していた。
一方晃とまことは冷静に事態を把握し目で会話している。咄嗟に晃に抱き寄せられ守られていた体勢にほんの少しだけ彼女の心は揺れ動いたが、すぐにその瞳に力を宿して頷いた。
二人は常人では見えないほどの瞬発力で渦中の男達の前へと進み出る。
「何だお前らぁ!!」
目の焦点が合っていないリーダー格の男は自分の横にいつの間にか立つ長身の男に肝を冷やした。ナイフを突き付けようとするも左腕でがっしり上半身を固定され手刀で手首を思い切りやられ持っていたナイフがカラカラと音を立てて床に落ちる。
目にも止まらぬ速さで初手が遅れたエアガンの男はあっという間にミニのフレアスカートの美女から鳩尾に鮮やかな蹴りをお見舞いされて低く呻く。
「あー!まこと!(見えるから)蹴りはダメだろ蹴りは!!」
晃は背負い投げして脳震盪を起こして伸びている男の腕を適当に往 なすと、緊張感のない声で恋人を窘めた。
「んなこと非常時に言ってる場合か!」
腹を抑えながら尚も飛びかかろうとするエアガン男を躱し、右ストレートでぶん殴るまことの動きは雷の様に高速で流麗だった。
それでもきっちり彼氏の忠告を守る辺りは乙女である。
「まこと!」
怯えつつ最後に残った小型ナイフを持つ男がまことの背後から切りかかろうとしてくるのが見えた晃は優 に五メートルは超える距離を助走なしに高くジャンプし飛び蹴りを食らわせた。
とてもいち植物園勤務スタッフの動きには見えない。完全にアクションスターかヒーローショーのそれである。
しんと静まり返った銀行内。一呼吸置いた後に歓声と拍手が巻き起こった。
「警察呼んで下さい!」
「は、ははははいーっ!」
完全に床に沈んだ強盗犯達を尻目に行員にまことが声を掛けると、まるで映画のワンシーンでも観たような事態に呆けていたその窓口の女性は声を裏返しながらも返事をした。
晃は別の行員にロープを用意させて三人をぎっちりと縛った。
「まことのパンツ見ていいのは俺だけなんだよ」と恐ろしい顔でぶつぶつ言っているのを近くにいた客に目撃されている。
「久々のデートが散々になっちまったなぁ。」
「確かに。」
夕方帰宅した二人は、浴室で本日のデートを振り返りながら笑い合っていた。
バスタブにはモコモコの泡が浮かんでいて、まことのお気に入りのローズの香りが二人を包んでいる。
「でもさ、晃かっこよかったよ。」
背後から抱きかかえるように座っていた晃は、耳を赤くしながらぽつりと言うまことに我慢していた分思い切り抱きしめて首筋に顔を埋めた。ひゃっと悲鳴を上げるも受け入れるまこと。
「まことも、めちゃくちゃかっこよかったぜ。ますます惚れた。でもミニスカートでキックは駄目だからな!絶対。こればっかりは譲れない。」
「もう!」
「頼むよ、まことは俺の大事な女なんだから、それを大事にしないのが例えまこと自身でも……俺は怒る。」
振り向くと真剣な目でそう言われてまことはしおしおと頷いた。するとものすごく優しい目で頷かれて胸の奥がギュッとなる。そして自分の腕を晃の首に回してキスをした。
(低温設定にしといて良かった!!)
晃は再び心の中で拳を作る。スイッチの入った彼はその手で愛しい女性に優しく触れ始めた。
おわり
平日の昼下がり。まことはたまたま休講となり、元々空いていた晃と数ヶ月ぶりにデートしていた。
「仕事始めてからは晃も忙しいし、こうして昼に出掛けるのって久しぶりだよな。」
「おう!今日はとことん楽しもうぜ。」
「うん!」
まことは晃に大きな掌で頭をわしわし撫でられて向日葵が咲いたみたいに笑った。今日は髪を下ろしているせいかいつもと違って雰囲気もふわふわしていている。
(やべ、めっちゃキスしたい)
恋人の史上最強に可愛い笑顔という心の栄養剤を大量に投与された晃はイチャイチャモードな思考に流されそうになるが、ここは人で賑わう十番街。
今は手を繋ぐだけになんとか留めた。
男の欲望で女を恥に晒しちゃならねえ!という彼なりの信念である。
付き合い始めはまことがそばにいる事が嬉しすぎて随分とストレートにスケベ発言をしまくっていた晃だが、二年経過して成長した自分の精神を心の中で拳を作って褒め称えていた。
えらいぞ!俺!!といった具合である。
まことが短大に進学してから同棲をしている二人だが、晃が大学を卒業してからは都内でも有数の植物園の従業員として働いている為毎朝早く出ている。こうして昼に仕事が上がる事も月に何度かあるがそれがまことの予定と合うかと言えば、例えるなら初詣のおみくじで大凶を引くよりも難しかった。
軍資金を下ろしに銀行へ向かった先であんな事が起こったのは、やはりそのごく稀な確率という悪戯がそうさせたのかもしれない。
「これでよしっと。じゃあ行くか!」
先にATMを使い終わっていたまことにそう声をかける晃だったが彼女が戦闘時の様な視線で一点を見つめている姿にハッとなる。そして彼もすぐに神経を研ぎ澄ませてまことの前に立った。
「晃、なんだかあいつら様子がおかしい。」
背後からのまことの言葉が終わるのと同時にこの場にそぐわない攻撃的で派手な音が鳴り響いた。
ダダダダダダンッ
「今すぐ三千万用意しろっっ!!騒いだら殺す!!」
銀行内は途端にパニックとなり叫ぶ者、しゃがんで震える者、中にはATMの前で財布を握りしめたまま呆然としている者もいた。
事が起こっているATMの奥にある窓口コーナーの行員は青ざめながらも騒ぎ立てる事なく手を挙げて立ち上がっている。
怒鳴り金を要求した男はサバイバルナイフを持ち、サバゲーにも使用する様なエアガンを撃った男がその後ろで辺りを威嚇し、もう一人は大きな袋を抱え、その片手には小型のナイフを携帯していた。
一方晃とまことは冷静に事態を把握し目で会話している。咄嗟に晃に抱き寄せられ守られていた体勢にほんの少しだけ彼女の心は揺れ動いたが、すぐにその瞳に力を宿して頷いた。
二人は常人では見えないほどの瞬発力で渦中の男達の前へと進み出る。
「何だお前らぁ!!」
目の焦点が合っていないリーダー格の男は自分の横にいつの間にか立つ長身の男に肝を冷やした。ナイフを突き付けようとするも左腕でがっしり上半身を固定され手刀で手首を思い切りやられ持っていたナイフがカラカラと音を立てて床に落ちる。
目にも止まらぬ速さで初手が遅れたエアガンの男はあっという間にミニのフレアスカートの美女から鳩尾に鮮やかな蹴りをお見舞いされて低く呻く。
「あー!まこと!(見えるから)蹴りはダメだろ蹴りは!!」
晃は背負い投げして脳震盪を起こして伸びている男の腕を適当に
「んなこと非常時に言ってる場合か!」
腹を抑えながら尚も飛びかかろうとするエアガン男を躱し、右ストレートでぶん殴るまことの動きは雷の様に高速で流麗だった。
それでもきっちり彼氏の忠告を守る辺りは乙女である。
「まこと!」
怯えつつ最後に残った小型ナイフを持つ男がまことの背後から切りかかろうとしてくるのが見えた晃は
とてもいち植物園勤務スタッフの動きには見えない。完全にアクションスターかヒーローショーのそれである。
しんと静まり返った銀行内。一呼吸置いた後に歓声と拍手が巻き起こった。
「警察呼んで下さい!」
「は、ははははいーっ!」
完全に床に沈んだ強盗犯達を尻目に行員にまことが声を掛けると、まるで映画のワンシーンでも観たような事態に呆けていたその窓口の女性は声を裏返しながらも返事をした。
晃は別の行員にロープを用意させて三人をぎっちりと縛った。
「まことのパンツ見ていいのは俺だけなんだよ」と恐ろしい顔でぶつぶつ言っているのを近くにいた客に目撃されている。
「久々のデートが散々になっちまったなぁ。」
「確かに。」
夕方帰宅した二人は、浴室で本日のデートを振り返りながら笑い合っていた。
バスタブにはモコモコの泡が浮かんでいて、まことのお気に入りのローズの香りが二人を包んでいる。
「でもさ、晃かっこよかったよ。」
背後から抱きかかえるように座っていた晃は、耳を赤くしながらぽつりと言うまことに我慢していた分思い切り抱きしめて首筋に顔を埋めた。ひゃっと悲鳴を上げるも受け入れるまこと。
「まことも、めちゃくちゃかっこよかったぜ。ますます惚れた。でもミニスカートでキックは駄目だからな!絶対。こればっかりは譲れない。」
「もう!」
「頼むよ、まことは俺の大事な女なんだから、それを大事にしないのが例えまこと自身でも……俺は怒る。」
振り向くと真剣な目でそう言われてまことはしおしおと頷いた。するとものすごく優しい目で頷かれて胸の奥がギュッとなる。そして自分の腕を晃の首に回してキスをした。
(低温設定にしといて良かった!!)
晃は再び心の中で拳を作る。スイッチの入った彼はその手で愛しい女性に優しく触れ始めた。
おわり