初めての◯◯
『初めてのケーキバイキング』(ゾイ亜美)
「混んでるわねぇ。まだ並ぶの?!」
「ケーキバイキングですから。」
「分かってるわよ!」
「それなら良かったです。」
若者の街で人気のケーキバイキングの店先に参考書を読み続けている才媛亜美と、苛立ちを隠しもしない美麗な男西園寺要が長蛇の列を並んでいた。
場違いのようにも見える二人が何故ここにいるのかというと、偶には図書館以外のデートをしてみたいと晃に愚痴ったのが始まりだった。
『何かなめっち、お前それまじで?!』
『うるさい。笑ったら刺すよ?』
持っていたシャープペンをナイフのように持って晃に向けた。勝手知ったる衛の部屋でダラダラしながら話す二人に、キッチンにいたこの部屋の主人は苦笑しつつコーヒーを淹れてやっている。
晃は要の物騒な物を何とか宥めて落ち着かせ、自分の長財布をガサガサやってから券を二枚差し出した。
『ケーキバイキングの割引券?』
『そ。女子ならみんな喜ぶだろ?それはバイト仲間から何枚も貰ったやつだから気兼ねせんで行ってきていーぜ!』
『けど亜美ってこういうの好きかしら。』
『好き好き!だーいすき♡』
両手を顔の横で組んで裏声で返す晃にナメクジを見るような目で睨む要。
『は?キモ!寄るな大男!』
『あーもう、ほらほら!コーヒーできたぞ二人とも。』
鶴の一声ならぬマスターの一声で小競り合いは終了した。
漸く席に案内されると、亜美は参考書をしまう事もせずに飲み物を頼みましょうと言って要に軽く目配せした後、再び英文に目を落としてしまう。自分はアイスティーにしますと簡単に言葉を添えて。
さすがに彼は悲しくなってきた。店員にアイスティーとアイスコーヒーを頼むと無言で立ち上がる。
「西園寺さん?」
「ぼやぼやしてないで取りに行くわよ。待たされた分食べなきゃ損でしょ。」
何となく顔が見れずに要はケーキが並ぶ方へと足を進めた。
「すみません、怒ってます?」
腕をキュッと掴まれて要はいちいち跳ねる自分の心臓に苛立つ。
「怒ってないわよ。私はサンドイッチとか軽食もあるみたいだからそっちにいく。あなたは好きなケーキ取ってくれば?」
「え、ケーキ食べないんですか?じゃあどうしてケーキバイキングに誘ったりなんか___
「亜美が喜ぶと思ったからだろ!!」
腕を払って振り向いてそう大声で答える要に亜美は目を見開いた。
そして言ってしまった要本人も負けじと目を大きくして口元を抑える。店内の視線が一瞬二人に集まった。しかしすぐに目の前のケーキたちの魅力に意識を戻していく。
「西園寺さん。」
「悪かったわね、付き合わせて。」
自嘲した笑みを浮かべて言う要に亜美はもう一度手を添えた。
「ごめんなさい西園寺さん。私男の人と、お、お付き合いしている人と、こういう所来るの初めてでどう振る舞うのが正解なのか分からなくて、だからその、いつも通り参考書を読むふりして、誤魔化していました……。」
どんどん小さくなる声と真っ赤に染まった恋人の顔に要は心の中のカサカサしたものがゆっくり溶けていくのを感じる。
「ほーんと、亜美って。」
ばかだなぁ
ケーキバイキングに並ぶイチゴみたいに赤い耳元に笑顔で囁いた。
「それで?亜美はケーキは好き?」
「だ、大好き、です。」
おわり
「混んでるわねぇ。まだ並ぶの?!」
「ケーキバイキングですから。」
「分かってるわよ!」
「それなら良かったです。」
若者の街で人気のケーキバイキングの店先に参考書を読み続けている才媛亜美と、苛立ちを隠しもしない美麗な男西園寺要が長蛇の列を並んでいた。
場違いのようにも見える二人が何故ここにいるのかというと、偶には図書館以外のデートをしてみたいと晃に愚痴ったのが始まりだった。
『何かなめっち、お前それまじで?!』
『うるさい。笑ったら刺すよ?』
持っていたシャープペンをナイフのように持って晃に向けた。勝手知ったる衛の部屋でダラダラしながら話す二人に、キッチンにいたこの部屋の主人は苦笑しつつコーヒーを淹れてやっている。
晃は要の物騒な物を何とか宥めて落ち着かせ、自分の長財布をガサガサやってから券を二枚差し出した。
『ケーキバイキングの割引券?』
『そ。女子ならみんな喜ぶだろ?それはバイト仲間から何枚も貰ったやつだから気兼ねせんで行ってきていーぜ!』
『けど亜美ってこういうの好きかしら。』
『好き好き!だーいすき♡』
両手を顔の横で組んで裏声で返す晃にナメクジを見るような目で睨む要。
『は?キモ!寄るな大男!』
『あーもう、ほらほら!コーヒーできたぞ二人とも。』
鶴の一声ならぬマスターの一声で小競り合いは終了した。
漸く席に案内されると、亜美は参考書をしまう事もせずに飲み物を頼みましょうと言って要に軽く目配せした後、再び英文に目を落としてしまう。自分はアイスティーにしますと簡単に言葉を添えて。
さすがに彼は悲しくなってきた。店員にアイスティーとアイスコーヒーを頼むと無言で立ち上がる。
「西園寺さん?」
「ぼやぼやしてないで取りに行くわよ。待たされた分食べなきゃ損でしょ。」
何となく顔が見れずに要はケーキが並ぶ方へと足を進めた。
「すみません、怒ってます?」
腕をキュッと掴まれて要はいちいち跳ねる自分の心臓に苛立つ。
「怒ってないわよ。私はサンドイッチとか軽食もあるみたいだからそっちにいく。あなたは好きなケーキ取ってくれば?」
「え、ケーキ食べないんですか?じゃあどうしてケーキバイキングに誘ったりなんか___
「亜美が喜ぶと思ったからだろ!!」
腕を払って振り向いてそう大声で答える要に亜美は目を見開いた。
そして言ってしまった要本人も負けじと目を大きくして口元を抑える。店内の視線が一瞬二人に集まった。しかしすぐに目の前のケーキたちの魅力に意識を戻していく。
「西園寺さん。」
「悪かったわね、付き合わせて。」
自嘲した笑みを浮かべて言う要に亜美はもう一度手を添えた。
「ごめんなさい西園寺さん。私男の人と、お、お付き合いしている人と、こういう所来るの初めてでどう振る舞うのが正解なのか分からなくて、だからその、いつも通り参考書を読むふりして、誤魔化していました……。」
どんどん小さくなる声と真っ赤に染まった恋人の顔に要は心の中のカサカサしたものがゆっくり溶けていくのを感じる。
「ほーんと、亜美って。」
ばかだなぁ
ケーキバイキングに並ぶイチゴみたいに赤い耳元に笑顔で囁いた。
「それで?亜美はケーキは好き?」
「だ、大好き、です。」
おわり