11 失くして見えるもの
マーズと橋を渡りきったとき、突然空間が歪んだように感じて足元がふらつく。
「何なの!?」
「奴が来たわ。ヴィーナス、用心して。」
横にいるマーズは僅かに顔を青ざめて言った。
「分かってる!」
私がそう答えたとき、反対の橋を渡っていたマーキュリーとジュピターとも合流して、お互い視線を交えると頷いて辺りの様子を慎重に窺う。
「ようこそ我が帝国へ。」
突如頭上から聞こえてくる声に驚き顔を上げる。
「だが残念だ。大切なプリンセスの花嫁姿は見れずにお前たちはここで命果てることになるのだからな。」
地上で感じた暗黒エナジーよりも格段に増長しているオーラに圧倒されそうになるけれど、確固とした決意は少しも揺らがない。
それはうさぎと共に地上に帰ること。
必ず悪を倒してもう一度皆で幸せに暮らすこと。
そして…今度こそうさぎの笑顔を見ることだった。
黒い炎が巻き起こりそれが放射状に降り注いでくる。
「マーキュリーアクアラプソティ!」
マーキュリーの美しい水の琴の調べはそれに負けない威力を持っていた。
彼女もいつもとは違う。きっと強い信念を持ってこの場所に臨んでいるのだ。
「うさぎちゃんは私たちが助ける!」
「ほう…さすが月の者の力だ。古に我を葬り去った一族の守護戦士だけのことはある。少しは楽しめそうだ。すぐに死なれては余興にもならんしな。」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべたルシファーは次なる技を繰り出してきた。
「炎には炎で勝負よ!バーニングマンダラー!!」
黒い炎に対抗したマーズの攻撃は初めこそ押されていたけれど、徐々に燃え盛る赤い炎が押しやっていった。
「ジュピターオークエボリューション!!」
ジュピターもマーズの技に重なるように加勢する。すると二人の攻撃はルシファーの炎を貫いて奴に真っ直ぐに向かっていった。
「まさか!?」
奴はそう言ってマントで防御したが、すかさず私がヴィーナスラブミーチェーンを放ってその手を弾いた。
「ぐ…ぐああ!」
そして奴に命中した技はルシファーに確実にダメージを与えていた。
「今よ!」
私は三人に呼びかける。
「セーラークリスタルパワーアタック!!」
私たちは同時にそう叫ぶと、四人の必殺技を渾身の力を込めて放った。
奴は呻いてフラフラとその場に膝を付いた。
予想外の私たちの攻撃力に多少の油断があった自分を悔いているかもしれない。
私自身も不思議だった。ここまで自分の力を信じる気持ちに比例して100%以上出せるのが初めてだったから。
そう。絶対に負けない。どういうわけか心の中ではっきりと自信を持って言えるのだった。
守護戦士としての真の力が主を失ったことで目覚めたのかもしれない。
プリンセスであるうさぎが、徐々に戦士としてではなく真のクイーンに成長していくのと同じように。
私たち四人は、うさぎを助けたいという気持ちによって胸の中の星をこれまでに無いくらい熱く輝かせていた。
もう一度星の力を最大限に持っていこうとした時、奴の口から信じられない言葉が飛び出して思わず動きを止めた。
「う…俺は…あ…や…か…ぐっ…ぐあああああ!!!」
頭を抱えて苦しそうにもがくその顔はルシファーであってそうではない違う男のものだった。
今、確かに『彩花』と言った。『ナタリア』ではなく。
どういうこと?
「おのれ出てくるな…!弱き人間め…!」
そして奴はマントをバサリと闇に同化させて自らその姿を消してしまった。
「一体…奴に何が…?」
呆然とする中、零したジュピターの言葉が砂塵に舞って飛んでいく。
つづく