6 対峙
遠い記憶。記憶を無くした俺が、初めて笑った日の記憶。
「まもるくん!ひまわり畑にたくさんひまわりが咲いたよ!!一緒に行こうよ!!」
あやかちゃんはどうしてこんな僕にいつも笑って話し掛けることができるんだろう。
「…行かない。」
読んでいた本に視線を戻して答える。
どこにも行きたくない。
誰とも一緒にいたくない。
一人が楽なんだ。
そうすれば何にも傷付かないから。
「分かった。じゃあひまわりたくさん持ってくるから待っててね!!」
畑のものを勝手に摘んできたらダメだろ。
そう思いながらも何も答えずに本を読み続けていた。
どれくらい時間が経ったか、叔母さんが慌てて階段を掛け上がってくる。
「まもるくん!彩花がどこへ行ったか知らない!?」
「…え?」
時計を見たら、もう6時を過ぎていた。
「帰ってこないのよ!」
僕は叔母さんの言葉を振り切って部屋を飛び出した。
向日葵畑がどこにあるかは知っていた。毎日あやかちゃんと学校へ行く時に通るから。
だから迷うはずない。
だったらどうして帰って来ないんだよ!!
「あやかちゃん…あやかちゃーん!!」
僕は嫌な想像を振り切ってイトコのことを何度も呼んだ。
目的の向日葵畑にもあやかちゃんの姿は無くて、学校や神社、商店街も探した。それでも見付からなくて…。
息が切れて商店街の出口でしゃがみこむ。
「どこいったんだよ…」
ふと、商店街の端にある花屋に目を向けると、一気に立ち上がる。
「あやかちゃん!!」
「まもるくん?」
僕の視線の先には、向日葵の花束を抱えたイトコがちょうど店から出てくるところだった。
だけど目が合った途端、何だか気恥ずかしくなって俯いてしまう。
「まもるくん!お誕生日おめでとう!!」
「え?」
差し出された花束とあやかちゃんの言葉に驚く。
「ここのお店のお姉ちゃんね、仲いいの。だから特別にとってきたひまわりを花束にしてもらっちゃった!」
得意そうに笑うイトコに体の力が抜ける。
ヘナヘナとしゃがみこむ僕にあやかちゃんは慌てた。
「だいじょうぶ!?」
「…うん。」
「じゃあこれ!はい!!」
「…ありがとう…」
手を差し出して花束を受け取ると、あやかちゃんは突然叫んだ。
「なんだよ…」
「笑ったー!!」
「…え?」
「まもるくんが笑ってくれたー!!ばんざーい!!」
自分じゃ気付かなかったけれど、どうやら僕は笑っていたみたいだ。
商店街にあやかちゃんのばんざいが何度も響いていて、それに答えるかのようにセミの鳴き声がけたたましくなっていた。
夏の夕暮れ
ひまわりと彩花と
俺の笑顔の記憶。
喫茶店で彩花と話したときに敵かもしれないと思った時に、冷静に対応してみせたけれど…
アルテミスから新たな強大な敵であることを揺るがない事実として突き付けられた今、どうしても戦士として徹することのできない気持ちが隠せなくて…。
ほんの少しの望みをかけて、彩花ともう一度いとこ同士として話がしたい。そう思った。
すぐに戦闘になってしまうかもしれない。おそらくなるだろう。
だけど、そうやって彼女に近付けるのは俺だけだから。
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