1 静かな闇に誘われて



『ひどい…』



『申し訳ありません…』











またあの夢だ…。


あれは…衛君…?


もう小さいときの記憶しかないはずなのに…あなただって、分かる。

成長しているその姿は、いつもなぜだか王子様みたいな格好をしているの。




夢の中の私も、どこかのお姫様みたいな格好をしてる。

乙女チックな夢を見ているだけかもしれない。

忘れられない彼を王子様に見立てて、自分もお姫様だなんて都合のいい夢。

そう思っていた。

でも何度も何度も繰り返し見ているうちに、それは段々リアルなものに近付いていくような気がしていた。



だって夢の中の王子様の衛くんは、私にこう言うの。


『申し訳ありません…。あなたの想いには答えられないんです。』


夢の中の私はその言葉に答えることもできなくて…目が覚める。

夢なのに…全然甘い言葉じゃない。こんな言葉を聞きたい訳じゃないのに。




だけど夢の中の私の胸の痛みは、ずっと昔に受けたような気がしてならなくて。


それがいつ、どこなのかは分からない。



でもこれは夢じゃない。



昔にあったことなんだって…心のどこかで確信していた。









「彩花!いつまで寝てるの!?」

ドアがドンドン叩かれて、その向こうからお母さんの少しヒステリックな声。

「おはよう母さん。起きてるわ。今日は午後から講義なの。」

答えている最中にドアが開く。

母さんの顔を見て溜め息を一つ。


火曜日は毎週そうなのに、ちっとも覚えてくれないんだから…。


「おはよう。朝御飯作っちゃったんだから食べてよ。」


私の不満そうな顔を見ると、母さんもまた溜め息を付いてそう言って部屋を出ていった。




いつも通りの朝。

だけどあの夢を見た朝は、なんだかすごく嫌な気分。

どうして何も悪いことをしていないのに、毎回あんなに辛い言葉を彼から聞かされなくちゃいけないんだろう…。




私はあの頃からずっと大切にしまっている写真を手に取る。


嬉しそうに笑う小学生の私と



不器用に微笑んでいる従兄の衛くん…。







どうしてあんな夢を見させるの―――――?










私の名前は高嶋彩花。都内の大学に通うどこにでもいる20歳。



夢に出てくる彼の名前は地場衛くん。


幼い頃に叔父さんと叔母さんが交通事故で亡くなって引き取ることになった、それまでは会ったことの無かった私の従兄。



最後まで衛くんは私たち親子に馴染んでくれなくて、両親の反対を押しきって、中学に上がる前に自分から施設に行ってしまった。

何度も戻って来るように父さんも母さんも説得しに行ったけれど、首を縦には振ってくれなかったようだ。


お金を送ることも拒んでいたみたいだけど、それだけは父さんが押し切った。

叔母さんは父さんの妹なのだ。だから一層衛くんに対して、保護者としての義務や、愛情があったのだと思う。


けれど衛くんは逃れるようにいなくなったあの日から、この家に訪れたことはただの一度もない。


両親の記憶を無くしていて、誰よりも辛い思いをしているのが分かっていたから、私も両親も、そんな衛くんに対して責める気持ちを抱いたことは無かった。


それよりも、私たち家族が最後まで衛くんの心の寄り所になれなかった事が寂しくて…。




気が付けばたった一人の従兄に会えなくなって10年近くの月日が流れていた――――









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