5 冷めない微熱



「うさぎのお見舞いありがとう。」

インターホンを押して名乗るとすぐにドアが開いて彼女の母親が笑顔で出迎えてくれた。


挨拶をするとすぐにうさの部屋に案内される。

「うさぎね、今寝てるみたいなのよ。」

うさの部屋のドアの前で呟く。

「そうですか…。じゃあゆっくり休ませてあげた方がいいですよね。」

「ううん。いてあげて頂戴?私もちょっとお夕飯の買い物に行きたいから、その間だけでも看ていて欲しいの。いいかしら?」

「は…はい。いいですけど…。」

親の留守中に彼氏と二人きりにさせていいのかと逆に聞きたかったけれど、俺のことを信頼しきった様子で言っている育子ママを見て、その質問は奥へと引っ込んだ。


「じゃあお願いね。」


そうやって微笑むと本当に買い出しに行ってしまった。

うさのおおらかな性格は、きっと母親譲りだなと小さく笑う。




寝ているとはいえ、ドアを小さくノックして声を掛ける。


今まで数える程しか入ったことの無い彼女の部屋は、何となく俺の心を落ち着かなくさせていた。
それは、俺の好きなうさの香りがそこらじゅうから溢れているせいかもしれない。



「うさ?」

ゆっくりとベッドの彼女に近付いて小さく呼び掛ける。


うさは冷却シートが額に貼られ、肌にうっすらと汗を浮かべながら眠っていた。

汗で張り付いている前髪をゆっくりかきあげてやると、頬に涙の跡があることに気づく。目の下も赤く腫れていて、随分たくさん泣いたのだろうということが見て取れた。


「大丈夫か?」


そっと指で頬を撫でると、うさが小さく声を漏らした。


うっすらと目を開けてぼんやりと見ている彼女と目が合うと、途端に泣き出しそうな顔をされて焦ってしまう。


「やだ、まもちゃん…来なくても良かったのに…。」

そっぽを向きながら言われた予想外の言葉に心が曇る。


「俺に来て欲しく無かった?会いたく…無かったのか?」

つい女々しい言葉が飛び出してしまい、そんな情けない自分に呆れる。

「そうじゃない!そうじゃないけど…。」

そこまで言うと押し黙る彼女にさすがに不安になった。

「うさ…?どうしたんだよ。何か欲しいものがあるんだったら言え。」

核心には触れられずに当たり障りのないことを言って様子を窺う。

「…ない。」

「え?」

「私は、まもちゃん以外に欲しいものなんてない!!」

瞳には涙を溜めて急に大声でそういう彼女に驚く。話が見えなくて戸惑いながらももう一度うさに触れようとする。
だけどそれすらも払いのけられて心にピシリと冷たい風が吹いた。


「うさ…?」

「まもちゃんは違うの!?」


そう言う彼女の表情は興奮しながらもとても不安そうで。
言いたいことを全て理解してあげた訳ではなかったが、いつもと違う雰囲気で真剣に聞いている彼女の不安を少しでも取り除きたかった。

もう一度拒絶されるかもしれない僅かばかりの恐れもあったが、構わずに勢いよく抱き締める。


「俺だって…俺だってそうだよ?うさだけだ。うさが側にいてくれれば他には何もいらないよ。」

「ほんと…に?」

「ああ。」

ぎゅうっとしがみついてくる彼女の体温に安心する。
そしてしばらくの間、うさの呼吸が落ち着くまでしっかりと抱き合っていた。







「まもちゃん…あのね…。」

「ん?」

背中を撫でながら聞き返す。


「あの綺麗な人…だれ?」

掠れた声で胸にしがみつきながら聞いてくる彼女の言葉にドクリと心臓が鳴る。

新しい敵かもしれない。だけどそのことはまだうさには伝えたくなかった。少なくとも美奈やはるかたちと話して正体がはっきりしてからにしたい。



「写真で見ただろ?」

「え?」

顔を上げて、全く見当のついていない彼女にできるだけ優しく語りかける。

「従姉の彩花だ。」

「ええ~~!?」

目を真ん丸にしてすっとんきょうな声を上げたうさは再び瞳を潤ませた。

「なあんだ、そっか~…良かった…。」

えへへと笑いながら肩の力を一気に抜いている彼女を見て、さっきからのおかしな態度の原因がようやく分かった。

「そうゆうこと。だからうさは何も心配しなくていいから。」

人差し指でツンとおでこを押す。


心配するな。俺たちで何とかするから。うさは休んでて大丈夫だよ。





安心した様子のうさは再びベッドに横になり、俺の手を握る。

「ホントはキスしたいけど、まもちゃんに移っちゃうから我慢するね。」

そう言う彼女が可愛くて、うさの忠告も無視して触れるだけのキスをする。

「まもちゃん!?だめだよ移っちゃうって言ってるのに!!」

「大丈夫だよ。」

「もー!」

嬉しそうに笑う彼女の頭をゆっくりと撫でた。


玄関の開く音と彼女の母親の声が聞こえてくる。

俺はクラウンで待っているであろう仲間たちのことを思い浮かべると立ち上がった。

「そろそろ行くよ。お大事にな。」

「うん。ありがとう。」

微笑み合うと部屋を出る。そして育子ママに挨拶すると月野家を後にした。




「ルナ。うさの側にいてやってくれ。今は詳しくは話せないけど何者かに狙われている可能性が高い。」

通信機でルナに連絡をする。慌てた様子で彼女は返事をすると、5分も経たないうちに月野家にやってくる。


「衛さん!どういうこと?まさか…」

「話はあとでする。頼んだぞ!」

まだ言い足りない表情のルナを残してクラウンに走って行った。










つづく
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