4 first contact
「衛くん!!」
平日の午後の授業が休講の日が重なっていた為、彩花との約束をその日に決めていた。
夕方は互いにバイトもあるし、休日はうさと一緒に過ごしたかったからだ。
呼ばれた方に振り返ると、セミロングの黒髪を揺らしていかにも女子大生らしい服装に身を包んだ女性が明るく手を振っていた。
ぱっと見ではわからなかったけれどその笑顔には確かに面影があって、俺は小さく手を振り返す。
「彩花…だよな?よくすぐに俺って分かったな。」
目の前に立つ彼女に少し驚きを隠せずにそう言った。
「分かるよ。衛くんは、衛くんだもん。」
自信に溢れたような笑みを浮かべて俺のことをじっと見る。
え…?
その深いグリーンの瞳を見てデジャブを覚える。
でもそれがいつどこのことか、思い出す前に腕を引かれて我に帰った。
しかしその掴まれた感触も、俺の心のどこかに引っ掛かる。
だけどそれは子どもの頃に感じたものだろうとすぐに思い直して彼女のことをもう一度見る。
「とにかく、あそこのお店に入りましょ!感動の再会なんだから。」
嬉しそうにそう言う彩花に促されて近くの喫茶店に入っていった。
コーヒーを注文し、彩花は何にするのかと聞くと自分も同じでと答えられた。
うさだったらきっとこの店のケーキセット辺りを頼むんだろうな…なんて思っていたら彩花に呼ばれる。
「何?面白いことでもあったの?」
気付かないうちに俺は笑っていたらしい。言われて少し恥ずかしくなり「いや…何でもないよ」と言いながら目を逸らした。
「そうなの…?なんだか、やっぱり衛くん変わったよね。」
「え?」
「雰囲気が柔らかくなった。それって…彼女のお陰なのかな?」
笑顔で訊ねられて思わず微笑み返す。
「まあ…そうかな。」
「わーやだーご馳走様!」
お互い声に出して笑う。
そのあと、叔父さん叔母さんのことを色々と話してくれた。
うさのことについても名前から何から色々聞かれてしまったけれど、古くから知る従姉という気安さもあって、俺もいつも以上に彼女について話してしまったように思う。
うさの仲間以外と、こんなに彼女について話したのは初めてかもしれない。
「衛くんは聞かないの?」
ふとそれまでと違った低い声で話す従姉に目を向ける。
「何を?」
「私に彼氏がいるのかどうか。」
俯いたままそう言う彼女に少し違和感を覚えて一瞬黙り込んでしまう。
「いや、でも…いるだろ?彩花、綺麗になったし。」
「いないよ。」
ポツリと呟いた言葉はやけにはっきりと聞こえて、彼女はゆっくりと顔を上げる。
その顔を見た瞬間、俺の記憶は一気に呼び戻される。
子どもの頃の記憶なんかじゃない
この感じは…夢の中で見た…あの…
「私、ずっと…好きな人がいるから。」
ダークグリーンの瞳は僅かにゆらりと揺れて、真っ直ぐに俺の瞳を捉えていた。それは今までの明るい調子の彼女がまるでどこかに消えてしまったかと思える程の―――深い闇。
つづく