3 目覚め
「エンディミオン様、どちらに行かれるのですか?」
夢の中、前世の姿である俺は、ある令嬢に呼び止められた。顔はぼんやりしていてよく見えない。
「ああ…クンツァイト達と狩りに出掛けて参ります。」
彼女の顔を真っ直ぐに見れずにそう告げる。
そうだ…そうやって色々な嘘を付いてセレニティに会いに行ったものだった。
「変ですわね。クンツァイト殿は先程隣国へ用向いていましたが…」
「そうですか…。では私は書庫へ…」
なんとか切り抜けてこの場を離れようとする。
すると彼女は思いの外強い力で俺の腕を掴んで引き止めた。
「お待ちになってエンディミオン様!」
俺は彼女の顔を見ようとして振り返る。
そこで目が覚めた。
あの令嬢は…誰だったか…。
目覚めたばかりのはっきりしない頭で考える。
前世の記憶は全て思い出していたはずなのに、どうしてか彼女のことを思い出せずにいた。
時計は朝6時。日曜だというのに随分早く起きてしまった。
今さら寝直す気分にもなれず、どうしても夢の中の人物が分からない俺は、あの時代の記憶を持つ彼等に聞いてみることにする。
『それはナタリア嬢ではありませんか?』
翡翠に宿る四天王クンツァイトが少し思案した後そう言った。
「ナタリア…?」
『マスターの花嫁候補の一人ですよ。』
ジェダイトがさらりとそんな重大なことを言うものだから軽く目眩を覚える。
「何だって…?俺はそんな候補がいたことなど知らないぞ?」
『あーあージェダイト!それ、マスターには内緒だっただろ!?』
ネフライトが大袈裟な身振りでジェダイトをたしなめる。
『うるさい。もう時効はとっくの大昔に切れている。』
金髪の男は顔色一つ変えずに隣で慌てている同僚を制した。
『大体マスターはセレニティ殿に夢中で、他の女性のことなんて全く眼中に無かったもの。覚えていなくて当然だわ。』
ゾイサイトが呆れ顔でそう捲し立てる。
『そう。数多いる花嫁候補を我々が吟味してマスターに会わせていく手筈でした。それなのに貴方ときたら…』
クンツァイトが何やら説教を始めようとしたのを察知して、俺は大きめの咳払いをする。
「で?ナタリアという女性は、花嫁候補の」
『筆頭でした。』
クンツァイトは頷きながら即答した。
そうか…。思えば、何度か夢で見た状況があったような気がする。
顔はぼんやりとしか覚えていないのに、彼女の俺を呼び止める必死な声、掴む腕の感触はやはりどこかで記憶している――――
そう感じた。
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