まもセレ
月の輝きが消えた。彼女も嘘のように消えた。
しかし掛けていたブランケットには彼女の残り香が僅かにあって、その存在は嘘ではなかったのだと伝えてくる。
言えなかった。
もうきっと、あと僅かで月と地球の争いが起こり前世の俺達は他のもの全てと共にその命を落とすということを。
笑顔のまま彼女を元の時代に帰してあげることが今の俺に出来ることなのだと、言い聞かせて。
しかし帰らなきゃと言った彼女に、前世での俺が何度も味わった喪失感と寂寥感に襲われて。
思わず真実を告げたくなった。
帰るな。
君の時代に戻ったら、君は…セレニティは…君を庇って先に死んだ俺の後を追って自害してしまう。
絶望が広がる月の姿を見ることになってしまう。
行くなセレニティ
けれど俺を見る彼女の翳りのない瞳と澄んだ声に。
結局一つも告げることが出来なくなってしまった。
『あなたをすきになってほんとうによかった』
さっき言った彼女の言葉が蘇る。
俺もだよ…セレニティ。
運命は変えられない。
けれど、俺達の想いもどんなことが起ころうと、誰が何を言おうと変わらなかった真実。
この女性(ひと)を待っている前世の俺がいる。
そこへ還す事が何を意味するのか分かってはいるけれど。
せめて彼女が笑顔でいられる時間が少しでも多くあるように。
そう、願い続ける。
彼女がいなくなった部屋。流した涙は静かにブランケットに落ちていった。