まもセレ
「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
冷えた体を温めるために淹れたココアを美味しそうに飲み終えると、セレニティはにっこりと笑って聞いてきた。
名を明かすのが果たしてどれだけの影響があるのかは分からなかったが、しかしそれぐらいは教えても問題がないように思えた。それに、会話をしていく中で名乗らないままでいるのもおかしな話。そしてセレニティ相手に偽名は使いたくなかった。
「衛。地場衛だよ。」
真っ直ぐに見つめてそう言えば、彼女は瞬きを一つして嬉しそうに頷いた。
「まもる!私、セレニティよ!」
「うん、よろしく。セレニティ。」
「本当に…そっくり。」
「え?」
それまで笑顔だった彼女の表情に少しだけ影が差し始める。
「まもるがね、私の大好きな人と本当によく似てるの。そうやって名前を呼ばれたら…彼に言われているみたいで…」
そこまで言うと顔が不意にくしゃりと歪んで、涙がぽろぽろと流れ出す。
「セレニティ…」
前世の俺の前ではほとんど涙を見せたりはしなかった。いつも笑顔で、明るく、無邪気で―――
でも本当は、こうして見えないところでたくさん、たくさん泣いていたのだろうか。
そう思ったら胸の奥が締め付けられた。
セレニティは、エンディミオンとそっくりで、しかしエンディミオンではない俺を前にしてその抑えていた感情が溢れ出てしまったのかもしれない。
「……ごめん…」
腕の中にかつての恋人を納めると、零れ落ちたのは謝罪の言葉。
「どうして…まもるが謝るの…?」
「うん……どうしてだろうな…?」
言えずにごまかすことしかできない自分が腹立たしくなるけれど、彼女にこの先にあることなど伝えるわけにはいかないから…。
「変なまもる…」
ふふっと笑いながら言う彼女に切なさが増す。
「そうだな。」
うさにするように頭を二、三度ぽんぽん叩くともうさっきまでの笑顔に戻っていて。涙を拭って話し出した。
「私、この不思議な世界のことをもっと知りたいわ!さっきのデンキのこととか、あなたの着ている服のこととか、この窓から見える大きな乗り物のこととか!色々教えてくれる??」
「いいよ。」
くしゃっと頭を撫でてから微笑んで答えた。
「嬉しい!」とはしゃぐ彼女。
けれど彼女の笑顔を見るたび、俺の心は苦しくなっていく。ずっと心の中で暗く燻っていた前世の最期のあの瞬間。
彼女の時代に戻れば…彼女は、セレニティは―――