エンうさ
「セレニティ…!」
どうしよう。私、何だかとてもいけないことをしている気がしてきた。
だって、あまりにも記憶の中にあるエンディミオンと変わらない彼が私のことをそう呼んで待っていたから。
月の光と共に私の体は地上に降りて。
すぐにセレニティとは違うと気付かれてしまうと思ったのに、シルエットだけで分からなかったのか、エンディミオンは私のことを苦しくなるほど抱き締めた。
「よかった…今日はもう、会えないかと思ったんだ。」
「あ、あの…っ」
「嬉しいよ。セレニティ…」
跳ね上がる心臓。
セレニティだったころは、こうして抱き締めてもらえるだけで幸せで、満たされていた。
甘い気持ちに胸が一杯だったあのころの私は…もしかしたら彼の本当の心の内を気付けていなかったのかもしれない。
だって、こんなに切なそうで。まるで自分の震えさえも消してしまおうとするかのように強く強く私を抱いている。
きっとものすごく不安だったんだ。もしかしたらもうこの先ずっとこのまま会えないかもしれない…なんて思わせてしまっていたのかもしれない。
私がセレニティじゃないことに気付かないほど、冷静ではいられないくらいに…ずっと、ずっと待っていたんだ。
「…っ」
どうしよう
エンディミオンの思いが流れてきて涙が…止まらない。
「セレニティ…?」
私の様子に気付いた彼が体を僅かに離して頬に手を置いた。
とても近くで交じり合う視線。
今度こそ絶対に気付いたよね…?でも、何も言わずにただ私を見つめてる。
涙で滲んでちゃんと見れないけれど目の前のあなたの姿にどうしようもなく胸が震えていたの。
エンディミオン
本当にあなたなのね
何もかもがあのころのままのあなたが、生きてここにいる
「君は…」
「だめ。それ以上は聞いたらだめ…。ね?」
私はそう言うと、まだ混乱している彼の背中に腕を回した。
「ごめんね…」
その言葉が彼の胸の温かさに溶けてなくなる頃、私に回されていた腕の力が強くなる。
出会うはずもなかった私たち。
瞳を閉じていても感じる灯り。月の光に導かれて巡り合ってしまった。
でも月であなたのあの声が聞こえたときから、こうしてあげたいって思ってしまったの。
今抱き締めて改めて分かった自分の思い。
どうしたらいいのか、これからどうなるのか分からない。
私は愛する人と同じ香りに包まれて、ごめんね、ともう一度囁いた。