まっすぐ(ネフまこ・浅沼視点)
まこと先輩を久し振りに見かけた。
高校入ってからはほとんど顔を合わせなくなってたから…もう二年くらいは経つのだろうか。
背の高いまこと先輩よりも更に高い男と仲睦まじく歩いていた。とても俺なんかが入っていけるような感じじゃない。けど、こっちを見て気づいた先輩は懐かしそうに笑って近づいて来たから、俺も手を挙げて笑んでみせたんだ。
「浅沼ちゃん!ひっさしぶりだなぁ。元気だった?背も私よりでっかいじゃないか!」
「元気でしたよ!あははっほんとですね。伸び盛りでしたから。まこと先輩も相変わらず元気そうで嬉しいです。」
「それだけが取り柄みたいなもんさ。」
「そんなこと、ないですよ。」
まこと先輩の良いところは他にもたくさんある。あの頃の大切な思いと一緒にそれは次々と浮かんでくるけれど、何も言わずに微笑み、隣にいる彼にも挨拶をした。
「こんにちは。俺は南澤晃だ。よろしく。元麻布高校ってことは衛の後輩なんだな。あ、俺衛のダチなんだ。」
「そうでしたか。俺、浅沼一等といいます。衛先輩のことずっと憧れてて…」
「へえー!衛やるじゃん!」
心底嬉しそうに言われて。どう答えたらと迷っていると、ふと、じっと何かを探るような眼差しで見つめられた。
「まこと、お前らさ、久し振りみたいだし少し話してけよ。俺は先に店に行ってるから。」
「え?晃?」
同じく戸惑い気味の返答をする先輩の頭にぽんぽんと手を置くと、俺にもう一度笑って挨拶し、そのまま行ってしまった。
「良かった、まこと先輩のことを守ってくれる人ができたんですね。」
俺が言えば、ふと力を抜いて彼の去った方を愛おしげに見つめて「それはどうかな…」と彼女は返した。
「守られる、とかじゃなくて。私があいつの事が好きだから一緒にいるんだ。私だってあいつの事、守っていきたいしね。」
その笑顔は眩しくて……正義の戦士と恋する女性としての気高くて美しい、あの頃の俺が大好きな表情だった。
そしてそんな風にきっぱり言い切る先輩を見て、俺の中の昔の気持ちも昇華されていくような気がしたんだ。
「俺あの時、少しでもまこと先輩の力になれていました?」
少し目を見開いた後、破顔した彼女は、「もちろん」と大きく頷いてくれた。
それだけで、充分だった。
「ならいいんです。」
「ありがとな。またうさぎたちとみんなで会おうよ!」
「はい!」
俺たちは笑顔で別れた。
「よ!ちょっと話せるか?」
少し歩いたところで長身の彼が角から現れて声をかけられ吃驚する。
少しだけ悔しかったから意地悪を言ってみたくなった。
「立ち聞きだなんて、あなたも余裕ないですね。」
「いやお前に話があるだけでまこととの会話は聞いてねーよ。」
そんな彼は面食らいつつも目はとても真剣だった。
「なんですか?」
「俺さ……」
真面目な表情をすると彼の整った顔が際立つ。思わず息をのんだ。
「めちゃくちゃ幸せなんだ」
しかし続いた言葉と笑顔に力が抜けた。
「…初対面の人から惚気を聞くのはちょっと」
まあそう言うなってとニカッと笑った顔はまこと先輩と似ていた。
「幸せって一人じゃ作れねえだろ?あいつがこれまで出会ってきた人との繋がりがあって今のまことがいる。で、俺はそんなまことといるとすげえ幸せで大切だなって思う。」
陽だまりのような穏やかな目で言う彼に何も言えず、俺自身の心が緩んだ気がした。
「だからまことが大切にしてきた人達ってのは、俺も大切なんだぜ!」
しかし笑顔のまま強烈な肩パンが来てこの人ほんとにそう思ってるのかよ!!とも感じたけれど、なぜか握手まで求められたから流れで応えてしまった。
めっちゃ痛い。やっぱり余裕ないだろ?!いや、本心か??
この無駄にいい笑顔、ぜんっぜん読めねー!
「じゃあな」といたずらっぽい笑みで去ろうとする、結局器が広いんだか狭いんだかよく分からないこの人に、じんじんと地味に痛い右手を握って最後の反撃に出た。
「俺、まこと先輩からキスされた事あるんで」
「へ?」
「じゃあ失礼します」
面白い顔をして固まっている彼を置いて俺も笑顔で立ち去った。
ま、おでこだけどさ。いーだろ?これくらい言ったって。
まこと先輩、あなたに出会えて良かった。
俺、隣にいるのは自分じゃなくてもあなたの幸せを願ってます。
いつか二人で幸せになれる人を、俺も見つけますから。
駆け出して見上げた空には飛行機雲が真っ直ぐに迷わず線を描いていった―――
おわり
高校入ってからはほとんど顔を合わせなくなってたから…もう二年くらいは経つのだろうか。
背の高いまこと先輩よりも更に高い男と仲睦まじく歩いていた。とても俺なんかが入っていけるような感じじゃない。けど、こっちを見て気づいた先輩は懐かしそうに笑って近づいて来たから、俺も手を挙げて笑んでみせたんだ。
「浅沼ちゃん!ひっさしぶりだなぁ。元気だった?背も私よりでっかいじゃないか!」
「元気でしたよ!あははっほんとですね。伸び盛りでしたから。まこと先輩も相変わらず元気そうで嬉しいです。」
「それだけが取り柄みたいなもんさ。」
「そんなこと、ないですよ。」
まこと先輩の良いところは他にもたくさんある。あの頃の大切な思いと一緒にそれは次々と浮かんでくるけれど、何も言わずに微笑み、隣にいる彼にも挨拶をした。
「こんにちは。俺は南澤晃だ。よろしく。元麻布高校ってことは衛の後輩なんだな。あ、俺衛のダチなんだ。」
「そうでしたか。俺、浅沼一等といいます。衛先輩のことずっと憧れてて…」
「へえー!衛やるじゃん!」
心底嬉しそうに言われて。どう答えたらと迷っていると、ふと、じっと何かを探るような眼差しで見つめられた。
「まこと、お前らさ、久し振りみたいだし少し話してけよ。俺は先に店に行ってるから。」
「え?晃?」
同じく戸惑い気味の返答をする先輩の頭にぽんぽんと手を置くと、俺にもう一度笑って挨拶し、そのまま行ってしまった。
「良かった、まこと先輩のことを守ってくれる人ができたんですね。」
俺が言えば、ふと力を抜いて彼の去った方を愛おしげに見つめて「それはどうかな…」と彼女は返した。
「守られる、とかじゃなくて。私があいつの事が好きだから一緒にいるんだ。私だってあいつの事、守っていきたいしね。」
その笑顔は眩しくて……正義の戦士と恋する女性としての気高くて美しい、あの頃の俺が大好きな表情だった。
そしてそんな風にきっぱり言い切る先輩を見て、俺の中の昔の気持ちも昇華されていくような気がしたんだ。
「俺あの時、少しでもまこと先輩の力になれていました?」
少し目を見開いた後、破顔した彼女は、「もちろん」と大きく頷いてくれた。
それだけで、充分だった。
「ならいいんです。」
「ありがとな。またうさぎたちとみんなで会おうよ!」
「はい!」
俺たちは笑顔で別れた。
「よ!ちょっと話せるか?」
少し歩いたところで長身の彼が角から現れて声をかけられ吃驚する。
少しだけ悔しかったから意地悪を言ってみたくなった。
「立ち聞きだなんて、あなたも余裕ないですね。」
「いやお前に話があるだけでまこととの会話は聞いてねーよ。」
そんな彼は面食らいつつも目はとても真剣だった。
「なんですか?」
「俺さ……」
真面目な表情をすると彼の整った顔が際立つ。思わず息をのんだ。
「めちゃくちゃ幸せなんだ」
しかし続いた言葉と笑顔に力が抜けた。
「…初対面の人から惚気を聞くのはちょっと」
まあそう言うなってとニカッと笑った顔はまこと先輩と似ていた。
「幸せって一人じゃ作れねえだろ?あいつがこれまで出会ってきた人との繋がりがあって今のまことがいる。で、俺はそんなまことといるとすげえ幸せで大切だなって思う。」
陽だまりのような穏やかな目で言う彼に何も言えず、俺自身の心が緩んだ気がした。
「だからまことが大切にしてきた人達ってのは、俺も大切なんだぜ!」
しかし笑顔のまま強烈な肩パンが来てこの人ほんとにそう思ってるのかよ!!とも感じたけれど、なぜか握手まで求められたから流れで応えてしまった。
めっちゃ痛い。やっぱり余裕ないだろ?!いや、本心か??
この無駄にいい笑顔、ぜんっぜん読めねー!
「じゃあな」といたずらっぽい笑みで去ろうとする、結局器が広いんだか狭いんだかよく分からないこの人に、じんじんと地味に痛い右手を握って最後の反撃に出た。
「俺、まこと先輩からキスされた事あるんで」
「へ?」
「じゃあ失礼します」
面白い顔をして固まっている彼を置いて俺も笑顔で立ち去った。
ま、おでこだけどさ。いーだろ?これくらい言ったって。
まこと先輩、あなたに出会えて良かった。
俺、隣にいるのは自分じゃなくてもあなたの幸せを願ってます。
いつか二人で幸せになれる人を、俺も見つけますから。
駆け出して見上げた空には飛行機雲が真っ直ぐに迷わず線を描いていった―――
おわり