瞳の中の星(ネフまこ)
「まこと!俺達の記念すべき初のクリスマスは派手にいこうぜ!」
「何だよ晃、来ていきなり。」
まことの家にバイト帰りに訪れた彼は何故か異様にはしゃいで大きな体で更に両腕も大きく万歳のように伸ばして子どものように言ってきた。
プランは俺に任せろと胸を叩く恋人に圧倒されつつ呆れたような表情になるまこと。
「まあまだ先の話だしさ。とりあえず、夕飯食べるだろ?」
用意が今しがた出来たばかりの料理をそう言って並べていくまことに盛大に感嘆の声を上げる大柄の男は、鼻歌混じりに食器を並べるのを手伝った。
「いつも美味い料理、ほんっとーにありがとな。そのお礼じゃないけど、クリスマスは豪華なディナーを予約するから楽しみにしてろよ?」
「はいはい。」
苦笑するまことの返事もいつものこと。晃は目の前のご馳走に目を輝かせながらぱんと両手を合わせ「いただきますっ♪」と気持ちの良い位の号令を張り上げるとこれまた気持ちの良い食べっぷりで彼女の料理に舌鼓を打っていった。
だから彼は気付かなかった。彼女の瞳がほんの少しだけ寂しそうに揺れていたことを。
☆☆☆
ずっと一人で眠るのが当たり前だったベッドに、今は自分を包むように眠る恋人の温もりがある。それだけでまことは泣きそうになる。
その前の熱を持った行為ももちろん大切で…幸せではあるけれど。こうして柔らかな温度に包まれている時間が彼女にとって最も安らげる瞬間だった。
「ほんとは…そんな特別なことなんて何もしなくて…いいんだ。」
眠る晃の頬にそっと触れてまことは言った。
晃は知っているのだろうか。彼がくれるほんの些細なことがどれほど大きな幸福を彼女にもたらしているのかということを。
例えば注がれる優しい眼差し。
自分をすっぽりと包んでしまう逞しい腕に頭を撫でる大きな手。
料理をいつでも美味しそうに食べてくれること。
美味しいと言ってくれること。
いただきますとごちそうさまに心がこもっていること。
子どもみたいな笑顔。
そんな日常の一つ一つが夢みたいに幸せだと―――
不意にまことの瞳から涙がぽろりと零れた。
枕になっていた彼の腕にそのまま落ちてしまい慌てて拭う。
「…まこと…」
「…!」
起こした?そう思った彼女は目を見開く。しかし晃は目を閉じたまま微笑み、更に強く彼女のことを抱き締め直して変わらない寝息を立てる。
「あきら……」
彼の胸に埋もれてしまったまことは込み上げる涙も止められずに大きな逞しい胸板を濡らす。背中を撫でてくれる恋人の温もりにはっとしながらも、それがとても心地よくて。
彼女はそのまま幸福な夢の中に落ちていった。
晃は気付いていた。行為の後や…そうではなくても夜深くに、こうして目が覚めた彼女が一人で泣いていることがよくあるということを。
でもそれが悲しくて流れているものではないことも分かっていて。けれど彼女が零す笑顔も涙も全部自分と分け合いたい。そう思っていたから。一緒に眠るときは決まって彼女を包むように抱き締めて瞼を下ろしていた。
本当は、腕が温かくしょっぱいもので濡れた時に目が覚めたのだが。優しい彼女はそれで起こしたことを気にして安心して泣けないかもしれない。
優しい嘘と、いとおしむ気持ちとでまことを包み込み、穏やかな熱を分け合う。堪らず背中を撫でてしまったから起きていることが彼女にも分かってしまったかもしれない。でも何も言わず身を委ねてくれたから。
晃も安心して彼女を追うように瞳を閉じた。