遊園地に来てみた(クン美奈)
「で?何から乗るんだ?」
賢人は遊園地の案内地図を広げて、まるで参考書のどの問題から解くかとでもいうような顔で聞いてくる。
「いーから!遊園地に来てまでそんな難しい顔しなーい!ほら、ソフトクリーム食べるわよ!」
たった今買ってきたそれを差し出して言えば、心底理解できないという表情を浮かべてソフトクリームと私を交互に見た。
「おかしな奴だな。この場所に来て乗り物を攻略しないとは。食い意地もここまでくると頭痛もしてこないぞ。大体いつの間に買ったんだ?」
あんたが地図をガン見している間ですー!
ま、そんだけ真剣(?)に、私とのデートを楽しもうと(?)してくれてるのは嬉しいけどね。
何だかいまいち言い切れないのが悲しいけれど。
だってこいつの思考回路って分かりづらいんだもん!
だけどこの前抱き締めてくれたときの私を呼ぶ優しい声と言葉は嘘じゃないって分かったから。
賢人がここにいてくれているのも…私のことが好きだからって思ってもいいのよね?
「んもー!嫌味言ってる間に溶けるから早く持ってよ!」
何だか自分の考えていることが恥ずかしくなってきて明らかに不自然にはしゃいで大きな声で言ってしまった。
でも賢人は困ったようにソフトクリームを見つめたまま。
「俺はそんなにたくさん甘いものを食えないぞ。知ってるだろ?」
「大丈夫!残りは私が食べるから気にしないで?」
「…。」
賢人は呆れたようにソフトクリームを食べる私を見た後、じゃあ…と言って突然肩を抱き寄せて顔を近付けてきた。
「!!??」
私が食べていたそれに口を付けて、離す時に頬すれすれに掠めていったから心臓が跳ね上がる。
べちゃっ
それは、白い渦巻きの素敵な美味しいものがするっと私の手から落ちた音。
「あーーーー!!!私のソフトクリームがあああ」
「お前が急に手を離すからだろ。」
「あ、あんたが急に人のもんをつまみ食いするからでしょーー!!??」
「甘いものは一口もらえば充分だ。まあ、もう一つあるんだし丁度良いじゃないか。」
持って来たティッシュペーパーで落としたそれを「全くお前は…」と小言を零しながらもきちんと掃除し始めてからそう言った。
途中で係員の人が掃除を引き受けてくれたから一言謝った彼が再び私の隣に立つ。
慌てて私も係員に謝るとその中年のおばさんはニッコリと笑う。
「いいんですよ~。二人とも仲が良くていいわねえ美男美女だし。楽しそうにしてて一番目立ってたわよ?あらごめんなさいね私ったら、野暮よねえ。」
「やだおばさんったら美女だなんて~!ぜーんぜん野暮じゃないですよ!なんて言ったって、私たち夫婦漫才なんですから!」
あはははと私が一人で笑っていると、何だかおばさんがぽかんとしていて賢人も絶句している。
しかも左手が冷たい。更に言うとベタベタする。
「美奈、まさか夫婦円満と…言いたいのか?」
「ああ!そうそうそれよー!って、アイス溶けたああああ」
「全く。どうやったら夫婦漫才と間違えるんだ。漫才はお前一人でやってろ。しかも夫婦じゃない。」
急いでソフトクリームを食べ始めた私のことを一人冷静に言っていた賢人はハンカチを差し出してくれた。
何だかんだ言いながらも結局優しいのよね。賢人って。
「あらー、でもお嬢さんの言葉も間違っていないように見えるわねえ。」
と、くすくす笑うおばさんはそう言い残すと手を振って去っていった。
「「漫才なんてして」」いません!!」いない」
そう返すと振り返った彼女は更に笑っていて。気付けば周りの人たちも何だか笑ってる。
それがもう何だか可笑しくて。
結局私も声を上げて笑ってしまった。
そんな私を苦笑しながらもどこか嬉しそうに見つめる賢人に溶けかけのソフトクリームを差し出す。
「ほら。半分手伝ってよ。」
「お前は。人の話を聞いていたのか?」
「私は賢人と食べたいの!!」
「…仕方の無いお嬢さんだな。」
口元に手を当てて目を逸らす彼は無言で私の手からそれを受け取った。
そしてそのまま、半ばやけくそ気味に食べる彼に微笑む。
「ふふっ美味しいね!賢人!」
「………甘い…」
突っ返されたソフトクリームを最後まで食べきると、苦手なものを大量に食べてフリーズしている賢人を引っ張る。
そしてテーマパークの目玉のジェットコースター目指して走り出した。
苦手なものも一緒に食べてくれる賢人
分かってるくせに何だか今日は甘えちゃう
こんなにいいお天気で
大好きな遊園地
隣にはあんたがいる
いつもよりはしゃいじゃうのは仕方ないよね?
だけど流石に顔色悪いあんたを見たらそんなことばかりも言えないか
まあ、ごめん
私ってば嫌な女かな
だけどね
それでもこうして一緒のことが増えていくだけで
それだけで
すっごく
嬉しいの
愛されてるなー、なんて、思っちゃう私って
かなり勝手な愛の女神様ね
おわり