緩やかに(クン美奈)
家に来てソファーに横になって占拠していた美奈子が、キッチンから戻ってきた俺の事を見ると飛び起きて二枚のチケットを意味不明な効果音を口にしながら差し出してきた。
彼女の腹の上で同じように寛いでいた白猫も突然の主の動きに悲鳴を上げてソファーから落ちる。
「遊園地?」
「そ!うさぎがタダ券くれたのよ。」
美奈子の隣に腰を降ろして彼女にはアイスレモンティ-を置き、自分はコーヒーを一口飲んでからたっぷり間を置いた。
「それで?」
「それで?じゃ、ないでしょ!!一緒に行こうって言ってるの!!」
「そういうのはうさぎさんと行ったらいい。」
「何でよ!」
「楽しめる者同士が行った方がチケットも無駄にならない。」
自分としては善意で言ったつもりだったのだが。左隣からは戦闘時のようなオーラが放たれてきて目を見張る。
「あんたには私とデートする時間なんて無駄だってことね?」
「そうは言ってないだろ。」
俯いたまま低い声で言う彼女に、いつもの短気だと思った俺は特に表情も変えずに言い返す。
「そういうことでしょ!?もういいわよあんたなんて!!」
上げられた顔を見て自分の迂闊さを激しく後悔する。
彼女の表情はいつものように怒っているというよりも悲しげで。目からは涙が零れ落ちそうになっていた。
しかし言うが早いか手元のクッションを思いっ切り俺に投げ付けて鞄を引っ掴んでそのまま家を出て行ってしまった。
取り残されて重く、苦い物が胸の中に広がる。
「美奈!」
足元にいた白猫が俺が彼女を呼ぶよりも早く叫ぶ。そして俺のことを見る目は明らかに責めているものだった。