ココロウラハラ(ネフまこ)




「ハネムーンは俺が計画するからな!」

今日のデートの最中そう言って二カッと笑った晃は、深い夜となった今。私の上で夢の中。

「重い…」

体の半分を私に乗せたままの状態で眠る彼の寝顔は無防備で、さっきまで私のことを甘い激しさで求めてきた男とは思えないほど安心しきった様子で優しく寝息を立てている。

試しに前髪を撫でてみる。案の定起きやしない。

額をツンと押してみる。これは眉を少し動かしただけで安眠を妨害することは出来なかった。

まあ、私が本気になれば一発で起きることくらい分かってはいるんだけど。

そうしないのは私自身もどこかこの状況が嬉しいってのがあるのだろう。

好きな男とそういう関係になって、その男からたくさんの優しさと激しさと両手じゃ収まりきらない愛でぐちゃぐちゃに甘やかされた後のこの時間が、私はきっと好きなのだ。


ううん、かなり…好き。


まだそんなことを本人には言ったことがないけれど。

多分これからも言えないのだろうけれど。


それにしても、流石に右腕が痺れてきた。

「やっぱりこいつ、重すぎ。」

晃の肩に手をやり持ち上げて体から離す。仰向けになってそれでもすやすや眠る彼を見たら、何だか笑えてきて仕方が無い。

「お前、どれだけ満足気な表情だよそれ。」

そう言ってから一度起こした体をベッドに戻そうとすると、急に彼に腕を引っ張られて厚い胸板に顔を押し付けられていた。

「ちょ…晃?」

起こしたのかと慌てて顔を見れば。

相変わらず規則正しい寝息を立てていた。


む…無意識かよ…


夢の中に入っても尚、私のことを離さないこの男の行動を考えると一気に熱が顔に集まってくる。

でも私は特に抵抗もせずに大人しく彼の体に身を預けていた。

「好きだよ…晃」

それなのにその言葉を口にした途端、なんかもう自分が恥ずかしすぎて、晃の腕から抜け出して背を向けてしまった。

でも再び背後から抱き寄せられて「まこと可愛すぎ。」なんて言われたら黙っていられるわけが無い。

「起きてたのか!?」

「いーや、今起きた。今起きれた俺マジで偉い。」

「馬鹿!!」

「もっかい言って。まこと。」

「っな…!」

独り言を聞かれただけでこの恥かしさだっていうのに、この男は何考えてるんだ!無理に決まってるだろ!?

晃は無言でいる私の頭をぐしゃぐしゃに撫でると抱き締める力を強くする。

「よーし、分かった。今は言わなくていいよ。その代わり…」

―ハネムーンでは絶対言わせてやるからな―

耳元に強く残る私の一番弱い声がそう囁く。

こいつ、絶対分かっててやってる。

「ああもう!勝手に言ってなよ!」

「決めた。ハネムーン先。」

寝ぼけてんのか?会話が飛んでるんだけど…

「俺絶対まことと大阪行きたい。」

「大阪!?」

言っちゃなんだがハネムーンが大阪ってイメージはあんまり無い。

「旨いもんたっくさん食べて…あ、まことのお好み焼き旨かったな~。また作れ。」

「…おい。」

「USJも行きてえな。この前DVDで借りてきたあれも乗れるらしいぜ!」

「まあ、楽しそうなのも認めるし、私はそれでいいんだけど、晃は本当にいいのか?新婚旅行が大阪で。海外とか行きたいんじゃないの?」

「もちろん。だってよ、大阪なら飛行機乗らなくても行けるじゃん。」

不意に真面目な声と言葉に驚く。

「え…」

「それに大阪と言えば天下の台所だ!料理人のまこととしては血が騒ぐだろ?」

「いや、別に私は料理人じゃないし。」

両親を飛行機事故で亡くした私。それ以来飛行機が苦手になってしまった。

そんな私のことを一番に考えてくれている晃の優しさが嬉しいのに、やっぱり素直にはなれなくて。

「そーだな俺の嫁さんだ。」

「いやそれもまだだけど!?」

晃はすかさず切り返す私に心底楽しそうに笑う。


その笑顔をずっと見ていたい。なんて思う私は、きっと晃よりも心待ちにしているんだ。


晃と肩を並べて歩くその時を。

『南澤まこと』として生きていく、その日々を―――――









おわり
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