最愛。(ネフまこ)




見慣れたポニーテールが風に揺れて再びその肩に落ちる。

仄かな線香の匂いが鼻を掠めて、墓前に祈る彼女の後姿はいつもよりも一回り小さく見えた。



「まこと」



驚かないように小さく声を掛けたつもりだったが、彼女の体はビクリと揺れて勢いよく振り向いてきた。

「晃!?どうして…」

「どうして、じゃねえよ。当然だろ。」

「花…買って来てくれたんだ…。」

驚いた表情のまま、俺の手元を見て何やら信じられないという感じで呟いた。

「おう。ちょっと派手かもしれねえけど、感謝の意味を込めてこれにした。」

俺とまことが好きなシュガーピンクの薔薇。

それをありったけの数を買い占めてでかい花束にして持ってきた。

墓前に飾るには派手だったかもしれないが、どうしてもこの花にしたくて。

この薔薇は俺と彼女にとって特別な花だったから。彼女の大切な人たちにも贈りたいって思ったんだ。


「ありがとう…晃。」

瞳を潤ませて微笑むまことは、やっぱりいつもより儚げな印象で、俺が来るまでは色々なものに耐えていたのだということがその表情に、言葉にありありと浮かんでいる。

「ったく、言えよな。こんな大事な日を俺に黙ってるなんてよ。」

頭をぐしゃぐしゃに撫でながらぶっきらぼうに言い放つ。

「うん…ごめん。」

いつものような覇気が無い彼女は涙声で言い返してくる。

「さて挨拶挨拶っと。」

そんな彼女の肩を抱いて俺は明るくそう言うと花束を置く。そしてしゃがんで両手を合わせてニッコリと微笑んだ。

「初めまして俺がまことのダーリン南澤晃です。お陰様で毎日ラブラブ結婚間近でっす♪よろしくお願いします。」

「ちょ…!!いつ結婚間近になった!!真面目にやれよな!?」

「いいじゃん、別に約束とかはまだしてねえけど、俺はお前以外は考えらんねえし。あ、なんならここで誓いのキスしてもいいぜ♪」

「するか馬鹿!」

さらりと本音を吐いて冗談も交えれば、まことは面白いくらいに真っ赤になってそっぽを向いてしまった。



――お父さん、お母さん。まことを産んでくれてありがとうございます。

約束します。俺がこれからも彼女が寂しくないようにずっと…守っていくって。

俺、滅茶苦茶お嬢さんを愛していますから。――


俺が目を開けたのを見計らったかのようにまことが立ち上がる。

「ほら、行くよ。」

「だな。」

まだ若干赤くなりながらも手を差し伸べてくる彼女に俺は微笑んで応えた。

「俺今日そのままお前の家に行ってもいいか?」

「そんなの許可取る前にいつだって来てるだろ。」

「あははは!確かに!」

爆笑する俺を呆れ顔で見るまことは「それでも…」と繋いだ手をギュッと握って話し出す。

「今日は、私が晃に一緒にいて欲しい…な。」



えーと、まことさん。そんな可愛いこと言われて家まで持つか自信無いんですけど。


そんな気持ちのままに愛しい恋人を引き寄せて抱き締める。そして前髪をそっと撫で上げて額に口付けた。

「いくらでも。てか、いつまでも?」

「…こら!!」

そう言うまことに笑うと、彼女も仕方なく微笑んで、俺はそんな彼女らしい笑顔をそのまま攫うようにキスをした。








おわり
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