My girl…(ジェダレイ)
「もう来ないで!!」
階段の上から響く声に驚いて振り返る。彼女がこんなに大きな声を出したのは初めてだ。
だからその言葉はグサリと胸を刺した。
「迷惑なの?」
近寄れずにそのまま立ち尽くして問い掛ける。
「…そうよ。迷惑。」
視線を落として俺の言葉を繰り返した。
生い茂る木々が風を受けてざわざわと音を立てる。それすらも重苦しく聞こえて堪らず自分も視線を落とす。
「それは、俺がレイさんの嫌いな『男』だから…?」
もう一度見上げれば彼女は困惑した表情で俺の瞳をまっすぐ見ていた。
「これ以上勝手に私の心に入ってこないで頂戴。私は…男のことを考えている暇なんてないのよ。」
酷く辛そうに言う姿を見てどうしたらいいのか分からなくなる。だけど…。
「俺は…俺だよ。」
「え…?」
「男である以前に君を…火野レイが好きな一人の人間だ!!」
言葉にしても伝えきれない想い。だけどどうしても今、この時。はっきりと伝えたい。そう思った。
いや、思う前に口が勝手に動いていた。
「好きだ。」
「やめてよ!」
顔を赤らめて瞳を潤ませながらそう叫ぶレイさんは今にも泣き出しそうで、ずっと胸につかえているものがこぼれ落ちるのを必死に塞き止めているように見えた。
俺は下りてきた階段を一歩一歩上っていく。
「やめない。」
「男は勝手で嘘つきで…」
「俺は、レイさんが好きだ。」
瞳を逸らさずにもう一度告げる。
「すぐに裏切るわ。」
「絶対に裏切ったりなんかしない。」
丁度顔が同じ高さの所まで上ると足を止める。
「男に泣かされるのだけは死んでも嫌…!」
「泣かさない…!!」
彼女の潤んだ瞳の中には同じように潤んだ目を携えた自分が映っていた。
「悲しませたりしない。絶対に。」
彼女の頬を優しく包む。
「だから、俺を信じて?」
レイさんは返事をする代わりに、ユラリと揺らめく炎を宿した瞳でじっとこちらを見た後に、静かにそれを閉じた。
再び瞳を開けて彼女を見てはっとなる。
艶やかな表情を浮かべた恋する女性の顔。
初めて見る、俺だけが見ることを許されたその表情。
この可愛い人を自分の中に閉じ込めたくて、漆黒の長い髪に指を滑らせて引き寄せると、再びその唇を塞いだ。
おわり