愛の夢(ゾイ亜美)
こういう店で、何を頼んで良いのか分からない。
私はメニューの一番後ろにようやくソフトドリンクを見付けてウーロン茶を待たせてしまっている店員に焦って頼んだ。
でもその店員は私に嫌な顔ひとつせずに微笑んで厨房に向かっていった。
慌てふためいていているのは自分だけだと思うと、なんとも子どもで恥ずかしくなって一人溜め息を漏らしてしまう。
「こんな時間にこんなところで、誰かと待ち合わせ?」
突然頭上から聞こえてくる声に驚いて見上げる。
「西園寺さん…!?」
彼特有の男性でありながら女性のような妖艶な微笑みを携えて私の事を面白そうに見ていた。
彼の服装はいつものようなフワフワしたエレガントなものではなくて、白いピシリとしたワイシャツに黒のパンツに革靴といった、言い方がおかしいかもしれないけれどシンプルな男性らしい格好だった。
「あ…あの…!」
「何頼んだの?」
「え?ウーロン茶を…」
こんな大人の店でウーロン茶なんて頼んだ自分がやっぱり恥ずかしい。だけど未成年なのだから仕方がないのだ。
いつの間にか正面に座っている西園寺さんは、私が答えるとふーん、と何かを含んだような笑みで相槌を打つ。そして慣れた感じで店員を呼び止めた。
「ウーロン茶、追加ね。」
意外だった。この人のことだからもっとお洒落な名前のカクテルでも頼むかと思ったのに…。
そこまで考えて首を振る。
「あの!もうすぐ、その…父親が来るんです!だから…」
「父親?父親って、あなたのお父さん?」
「?…当たり前じゃないですか。」
そう答えると、テーブルに置いてあるキャンドルのボウッと温かい明かりの向こうの彼は綺麗に笑う。
前世から思っていたけれど、どうして彼は不意にこんなに綺麗に微笑むのだろう。
あの頃の気持ちが蘇って何も言えずに彼を俯き加減に見つめていた。
「良かった。彼氏かと思ったわ。あなた、可愛いから。」
「え!?」
言われ慣れない言葉に今度は赤くなって固まってしまう。
頼んでいたウーロン茶が2つともテーブルに並んで、片方を美しい動作で口に運ぶ彼は、自分で言ったことなどまるで気にしていないかのようだ。
コップを置くとまだ固まっている私の事を頬杖をついて嬉しそうに見る。
「そうやってすぐに赤くなるところ、可愛いよ。」
「さ…西園寺さん…。」
彼は昔から急にこうして男の人としては少し高いけれどそれでもいつもよりはずっと低い声を出して、女性のような話し方をしなくなることがある。
そんなときは決まって私の心は馬鹿みたいに揺れ動いていた。