微糖(クン美奈)


「ん~♪生き返る~♪」

美奈子は賢人のマンションのリビングで、買ってきたバニラアイスを一口(かなり大きめ)頬張ると幸せそうに微笑んだ。

まだ暦の上では春だというのに日中は汗ばむ陽気。美奈子は初めはケーキでも買っていこうと思っていたが急遽変更。アイスを大量に買い込んで恋人宅にやって来た。

「ほら、賢人も選んでよ!チョコミントに、ソーダ味、あずきバーもあるし、賢人の大好きなプリン味も買ってきたわよ!」

「…いらん。」

賢人はアイスコーヒーを一口飲むと溜め息を付いた。

「そんなに大量に甘いものを手土産にしてくるとは、困ったお嬢さんだ。それに、俺がプリンを摂取するのは風邪のときのみだ。それしか体が受け付けないのだから致し方なくだ。大体、アイスをプリン味にするなど、邪道もいいところだろう。いいから早く溶けるから冷凍庫に…

「あーあーもう、うっさいっ!!」

なにやら小言を並べ始めた恋人にそう返した美奈子は、その面倒くさい口にアイスをすくったスプーンを運んでやった。

「…美奈子…何をする。」

「アボガドみたいでおいしいでしょ?」




「…………アフォガートと、言いたいのか?」

「あっ?あははははー!?そうそうそれよ!バニラとコーヒーの奇跡のハーモニーってやつよ!」

いつもの言い間違いに恥ずかしくなって挙動不審な美奈子はついでとばかりに、これ持ってきまーすっと、大量のアイスたちを仕舞いに冷蔵庫に向かった。

美奈子が再びソファーに戻るとこちらをじっと見つめる賢人がいて。そのどきっとしてしまう眼差しから逃げるようにアイスを少し掬って食べる。

「美奈子も試してみるか?」

「何その聞き方エロオヤジ!」

そう笑って美奈子は流そうとしたが。

不意にスプーンを持つ手を取られてあっと思った瞬間に唇に熱が触れた。

しかもそれでは終わらずに深いものにすぐに変わり、舌を絡め取られて食べられそうな激しさで奪われる。恋人の変貌に心臓破裂寸前、腰砕け状態の美奈子はいよいよ思考が迷子だ。

そんな心理状態に気付きながらも止まらない賢人は美奈子の腰に右手を回し自分に引き寄せ、左手は美奈子の右耳に髪を掛けるようにさらと触れ。そのまま耳、頬、顎、首をキスの激しさとは真逆に優しく触れ続けた。

そんな賢人のずるいキスに翻弄されていた美奈子は必死に胸をドンと押して抵抗すると、ふっと笑った気配のする恋人に仕上げとばかりに触れるだけの優しいキスをされて、涙目になりながら真っ赤な顔を隠したくて俯いた。

「…どうだ?」

「…ばっかじゃない?なーにがどうだ、よ。ほんとエロオヤジ。」

上がった息も収まらずに憎まれ口を叩きながらも賢人のシャツの袖をぎゅっと掴む美奈子はその胸に頭を預けた。

そんな彼女の頭を撫でながら賢人は唇に孤を描く。

「アイスが溶けるぞ?」

「…いい。」

そうして美奈子は賢人の浅黒い首に白い腕を回した。



(先に、心が溶かされちゃったって言ってんの。責任取ってよね。バカ賢人。)







おわり
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