君は花に囲まれて微笑む(ネフジュピ)



「ちょっとネフライト!あなた何しに来たのよ!」

月に着くなりヴィーナスに出くわして非難の目を向けられる。

「うるせえ。俺は今がんがんに頭に来てるんだ。」

「はあ!?」

「いいから庭園に案内しろ!用が済んだらすぐ帰る。」

俺の剣幕に圧されて彼女は渋々庭園への行き方を教える。



あー何なんだちくしょう。なんでこんなにムカムカするんだ。好きでもない女にここまで振り回されるとは思わなかったぜ。

上等だジュピター。こうなったらとことん納得いくまで話してもらうからな…っ!!


「おいジュピター!!」

ヴィーナスに教えられた最後の角を曲がったのと同時に叫んだ。

しかしその後の言葉をつむぐことが出来ずに佇んだ。

美しく咲き乱れるシュガーピンクのバラの庭園が目の前に広がったから。



「ネフライト!?おまっ…何でこんな所に来てるんだよ!」

ヴィーナスと同じ様な事を言う彼女はその沢山のバラの中心に立っていた。

彼女の手元を見れば、そのバラを両手一杯に抱えていた。

俺の視線に気付いたのか慌てて花束を後ろ手に隠す。

そして彼女の頬は今までに見たことも無いくらいに紅潮していった。

って、なんだよその顔ちょーし狂うだろ。

「何でって。お前が一人で難題抱えてるって聞いたんだよ。」

「は?難題?」

「だから、庭園にずっと入り浸りで、何かに悩んでるみたいだってマーキュリーから聞いたって言ってんだ!」

「それで…わざわざ月まで来たのか?」

「ったく。一人で悩んでるんじゃねえよ。俺に相談くらいしろ!」

何となく恥ずかしくて目を逸らしながら語気を荒げて言う。

「あ…りがとう。」

「…おう。で、何に悩んでるんだ?見たところ庭園の植物は順調そうだが。」

素直に礼を言われて少し驚いたがそれを悟られないように彼女に近づきつつ冷静に聞き返す。

「悩んでたわけじゃないよ。ただ、この花は私が一人でどうしても咲かせたかったんだ。」

「だからなんで」

「ネフライトに見せたかったから。」

「…は?」

「お前に教わった知識で綺麗に咲かせた花を見せたかったんだよ。」

彼女の口から出る言葉だとは思えないそれらを呆然と聞く俺。そんな俺を見て彼女は吹き出した。

「何だよその顔!すんごいアホ面!」

「はあ!?お前なあ、このイケメンを捕まえてアホ面とは何だ!」

だけど更に声を上げて笑う彼女に結局何も言えなくなる。

「ネフライト。」

「何だよ。」

「はいこれ。やるよ。いつも…ありがとな。」

差し出される花束は本当に見事に花開かせていて、そこに彼女の花に対する熱意と愛情を感じた。

でも、正直俺の眼差しは花よりも彼女の微笑みに向いていた。



もしかして俺は今、初めて彼女を女性として見ているのかもしれなかった。

彼女の微笑みを見ただけで、心に空いていた隙間が埋められていくのを感じていたのだから。

だけどそれをすぐに認めるのは何だか癪でつい憎まれ口を叩いてしまう。

「お前、そうやって笑うと女みたいだな。」

「何だよそれ!私は最初っから女だ!」

案の定真っ赤にして怒る彼女は「もういいこの花はやらないからな!」と背を向ける。

「おっと!それは俺のだ。」

そう言ってすぐに花を奪い取る。

「あ!こら返せ!」

「嫌だね~。」

身長差も手伝って全く彼女の手は花束に届かなかった。

そしてそのまま地球と月が繋がる場所へと二人で向かう。

「ジュピター。」

「ん?」

結局奪い返すのを諦めた彼女は腰に手を当てて聞き返す。

「また俺の庭園に来い。」

「え?」

「お前が来ないとうちの花が寂しがるんだよ。新しい肥料も見せたいしな。」

「ネフライト。お前、四天王としての自覚あるのか?急にこっちに来たり、守護戦士を地球に誘ったり。」

頬を再び染めながら言う彼女は目を合わせない。

「ばか。俺が寂しいんだ。」

「…!?」

彼女が視線を合わせる前に背を向けてゲートに入る。

「じゃあな。せいぜい花枯らすなよ。」

手をひらひらと振ってそう言い残すとゲートを閉じた。













クンツァイトの説教を覚悟で歩を進める。手元からは花の香りが甘く漂って、その一番好きな香りが俺の心を満たしていった。













おわり
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