あおぞら
プリンセスはご機嫌斜めだった。斜めというよりも寧ろそのテンションは地の底に落ちるくらいの悪さだった。
最近彼女の両親が仕事が多忙なのが一番の原因。普段から忙しいことには変わりないのだが、この一ヶ月はそれこそ昼夜無いほどの繁忙期だったのだ。
国を治める二人が普通の人間よりも忙しいことは仕方が無いことなのだが、なんと言っても彼女はまだ四歳。まだまだ親に甘えたい盛りである。
ジュピターやヴィーナスが大抵遊び相手になってくれるのだが、どんなに頑張ってみたところで親の代わりにはなれない。
とうとう守護神たちが何を語りかけても『いや』の一点張りになり誰もいない両親の部屋に鍵を掛けてベッドの上で泣き伏せるという籠城にも似た状況になってしまった。
「すみませんキング、クイーン。」
「スモールレディの今の状況は、私たちではもう手に負えません…。」
げっそりとした表情で苦笑しながら続けて言ったのは、ジュピターとヴィーナスだった。
「そうよね、ごめんなさい二人とも。私も早くこの忙しさから解放されたいのだけれど…。」
「何とか少しだけでも抜けられないだろうか…。」
二人は連日の仕事で青い顔をしていたが、娘に会えずに辛いのは同様で、珍しくキングも弱気にポツリと本音を零した。
「私が次の会議を延ばすように計らって来ます。」
公務を補佐していたマーキュリーはきっぱりとそう言って立ち上がる。
「しかし…」
「ちょうど私も会議で発表したい案件があるんです。少し長くなりそうですから、お二人はその間にスモールレディのところへ行って差し上げてください。」
マーズは知っていた。水星の守護者にそんな案件は無かったはずだということを。
しかし彼女なら最もらしい話を瞬時に筋立てて発表することは可能であることも分かっていたため、敢えてそれを口にしようとは思わなかった。
マーズとしてもここ最近の主二人の激務には正直のところ納得いっていなかったからだろう。
ふっと息を吐いてマーズはマーキュリーを見やる。
「私も手伝うわマーキュリー。」
「ありがとう。」
そんな二人のやり取りを見て、キングとクイーンは礼を言うと、一目散に部屋を後にした。
「あの様子じゃ、二人も相当限界だったようだな。」
「私ももう限界でーす…ははは。」
ジュピターの言葉に、プリンセスにやられた頬の引っ掻き傷をさすりながら、おそらく引っ張られたであろう乱れた髪の毛をフラフラと揺らして愛の女神はそう言って半笑いを浮かべると、弱々しく手を挙げた。