王子様は誰のモノ??
見上げると要さん(ゾイサイト)が優雅な手付きで四本の口紅のキャップを取って指の間に挟んで構える。
私は咄嗟に後ろにジャンプして距離を取ると、四本のルージュからどぎつい香水の煙幕が飛び出して視界を覆う。
「う…この香りは…!?」
くらくらするほどのむせかえるローズの香り。
「私がこの香水を付けているとき、衛ったらうっとりしてしきりにどこで買ったのかとかいい匂いだとか散々言ってきたのよ?女のあなたよりよっぽど私の方が魅力的だってことよね?」
煙の向こうから声だけが聞こえてきて、強すぎる香水ガスに耐えきれなくなった私は高くジャンプした。
「へっへーんだ!!この香水はね、この前まもちゃんにプレゼントしてもらいましたー!うさに一番似合う香りだって言われて!!」
残りの髪飾りを投げ付けて赤い舌をチロッと出す。
「いやああああー!!」
女の人みたいな要さんは女の人みたいな悲鳴を上げて膝をつく。
「どうやら…俺が最後みたいだな。うさぎちゃん。」
不敵な笑顔を浮かべて晃さん(ネフライト)が呟いた。
私もグッと身構える。
「衛の…」
ゴクリ。無意識に息を飲み込んだ。
「初恋の相手、知ってる?」
え…?ハツコイ…??
「だ…誰なの…!?」
両手に意識を集中させて攻撃体制に入った晃さんはかっと目を見開いて言った。
「キュリー婦人だーー!!」
バコーーーン
両手から繰り出される衝撃波と謎の言葉に逃げる暇の無かった私は銀水晶でバリアを張って正面から受け止める。
「な…誰よ!きゅうり婦人って!!」
「あはは!知らねえの?女だてらに歴史に名を残す有名な発明家だぜ!万年赤点のうさぎちゃんからは程遠いな!その点、俺はこう見えて頭はいいから君には分からない高度な話も衛とは対等にできるんだぜ!!」
きゅ…きゅうりがそんなに偉いなんて聞いたことないもん!
「わ…私だって、晃さんが知らないような会話いっぱいしてるわよ!」
「へえ~?どんな?」
「べっ別にいいでしょ!?」
「じゃあ、どこで?」
「それはそのぉ…ベッドの上で?ま、まあ…恋人同士の会話ってやつですよ!」
赤面しながら言った言葉に晃さんが固まる。
まばたきすらしなくなってしまったから驚いて晃さんに駆け寄る。
「晃さ~ん?も…もしも~し?」
目の前でブンブン手を振っても反応なし。
「…う…」
「う?」
「うらやまし~ぜ~~~~!!」
突然の大絶叫に腰を抜かす。
そして晃さんはなぜか泣きながら疾走していってしまった…。