七夕短編2025年
クン美奈
「なんだこの地獄絵図は」
帰宅した賢人は笹の葉の大量のてるてる坊主を見て口にする。首が全部垂れ下がっていてまるで何かの儀式かのように見えるそれは、今もなお美奈子の手によって量産されていた。
「おかえりー。七夕はほぼ雨降るから願掛けよっ! 織姫彦星の二人が会えなくなったら可哀想じゃない」
あっけらかんと言っているがその表情は真剣で、あの頃の日々と彼らの主人二人の姿が連想され、賢人は彼女の細いが決して弱くはない手首を確かな力で掴んだ。
「美奈子、落ち着け。別に大雨が降ろうが暑かろうが、あの時のお二人は俺たちの忠告もお構いなしに逢ってただろ」
その言葉にハッとした美奈子は短く息を吐くとようやく賢人を見て微笑した。
「…それもそうね」
彼女のその様子にふと肩の力を抜いて頷く。
なーにやってんだろ、あたし。そう言いながら地獄のてるてる集団を外していく彼女に賢人も手伝う。
「暑い日も寒ーい日も。仲睦まじいことで。今で言ったらチベスナ顔であたしたち護衛してたわよね〜」
「ああ。散々だった」
ふっと笑った賢人に美奈子はそっと胸を鳴らす。
「ほんっと、あたしたちの言うことなんてなーんにも聞いちゃくれなかったんだから」
「ああ。だが、そのおかげで俺たちだって…逢えてた」
一段低くなる甘い声に美奈子の手が止まる。そこに彼の手が重なり、視線を上げればこちらをずっと見ていた瞳と目が合って、顔が赤くなるのを止められなくて困った。
「…ばか」
「てるてる坊主をこのありさまにする美奈子には言われたくない」
「ちょ…っ!」
反論の唇は彼の熱に封じられた。
「なんだこの地獄絵図は」
帰宅した賢人は笹の葉の大量のてるてる坊主を見て口にする。首が全部垂れ下がっていてまるで何かの儀式かのように見えるそれは、今もなお美奈子の手によって量産されていた。
「おかえりー。七夕はほぼ雨降るから願掛けよっ! 織姫彦星の二人が会えなくなったら可哀想じゃない」
あっけらかんと言っているがその表情は真剣で、あの頃の日々と彼らの主人二人の姿が連想され、賢人は彼女の細いが決して弱くはない手首を確かな力で掴んだ。
「美奈子、落ち着け。別に大雨が降ろうが暑かろうが、あの時のお二人は俺たちの忠告もお構いなしに逢ってただろ」
その言葉にハッとした美奈子は短く息を吐くとようやく賢人を見て微笑した。
「…それもそうね」
彼女のその様子にふと肩の力を抜いて頷く。
なーにやってんだろ、あたし。そう言いながら地獄のてるてる集団を外していく彼女に賢人も手伝う。
「暑い日も寒ーい日も。仲睦まじいことで。今で言ったらチベスナ顔であたしたち護衛してたわよね〜」
「ああ。散々だった」
ふっと笑った賢人に美奈子はそっと胸を鳴らす。
「ほんっと、あたしたちの言うことなんてなーんにも聞いちゃくれなかったんだから」
「ああ。だが、そのおかげで俺たちだって…逢えてた」
一段低くなる甘い声に美奈子の手が止まる。そこに彼の手が重なり、視線を上げればこちらをずっと見ていた瞳と目が合って、顔が赤くなるのを止められなくて困った。
「…ばか」
「てるてる坊主をこのありさまにする美奈子には言われたくない」
「ちょ…っ!」
反論の唇は彼の熱に封じられた。
