僕らはまだ知らない



~東雲瑛二の場合~




火曜日の夜。バイトもなく夕飯の支度に取り掛かろうとした時に呼び鈴が鳴る。

今夜はうさは明日からのテストの為に、レイちゃんの家で亜美ちゃん監視下で缶詰状態になっているはずだから訪問者は別の誰か。


声を掛けて玄関を開けると、あまりの負のオーラに息が止まる。




そこには両手に買い物袋をぶら下げて無表情で立ち尽くす東雲がいた。




「え…瑛二…?どうした?」

扉が開いて数秒経っても何も言わない東雲にたじろぎながらも問い掛ける。

しかしやはり何も答えない為、部屋に入るように促した。

「お邪魔します…。」

その時初めて発した律儀な挨拶も全く生気を感じられず、そのままリビングへよろよろと歩いて行った。


ドサリと置かれた買い物袋の中身を見ると、2リットルのペットボトルのジュース数本とポテトチップスやクッキーなどの大量の菓子が入っていた。

もしも俺と二人で消費するのだとしたら余りにも多すぎる。

「瑛二、その買い物もしかして…」

とりあえず淹れたコーヒーをソファーに無気力に座る東雲の前に置きながら聞く。

「そう…。レイさん達への差し入れだった。」

ゆっくりと頷いて袋を見ながら答える東雲はあからさまに悲しげな表情を浮かべている。

「それで…何で俺の所に?」

「よく覚えてないけれど…気付いたら衛の部屋の前にいたんだ。」

「?」

「レイさんに…追い返された。邪魔だって…。」

まるで捨てられた仔犬のような瞳で俺を見つめながら話す東雲。普段はこんな奴ではないのに、恋愛…レイちゃんが絡むと喜怒哀楽が激しく表れる。

「そうか…ははっレイちゃんもキツいな…」

ははっという明らかに乾いた笑い方がやたらとリビングに響いてしまい、ばつが悪くて口をつぐんだ。

「いいんだ。彼女はいつもそうだから…。」

自嘲気味な笑みを浮かべながらそう言う東雲は、見ているこちらが痛々しくなる。

「だけど、しばらく会ってなかったから。本当は二人で会いたかったけどなんだかタイミングが合わなくて。うさぎさんや皆がいたほうがレイさんも気兼ねしないで俺と会えるかなと思ったんだ。でも…」

「追い返されたのか。」

コクリ。頷いて溜め息をつく東雲。

「ただ俺が隣に座って大好きなレイさんの顔を見ていただけなのに…。」

「いや…それは…」

大真面目に言う彼に言葉を濁していると、再び俺のことを真っ直ぐに見て頬を僅かに赤らめながら話す。

「目が合ったら微笑んだだけなのに!…邪魔だって言われた。」

「まあ、さすがにテスト勉強中はさ…」

「なんでレイさんはあんなに美しいんだろう…。だから一緒にいたらずっと見ていたいと思う俺の気持ちは、間違っていないはずなんだ。」

俺の言葉も最後まで聞くこともなく若干自分の世界に入り込んで言う東雲に、やれやれと思いながらもコーヒーを啜った。

「瑛二、気持ちは分かるけど、試験が終わるまで待ってあげろよ。レイちゃんの気持ちや状況も考えてやれ。彼氏だろ?…俺だってうさに会うの我慢してんだから。」

「衛…。」

思わず自分の気持ちもいってしまった俺を見て、少し考えた後に眉をきゅっとひそめながら小さく頷いた。

「さて。俺はこれから飯を作るけど、お前も食べていくか?」

「…食べる。」

ちょっと拗ねた子供みたいに答える東雲が可笑しくて苦笑しながらキッチンに向かった。

「衛」

「ん?」

「俺、玉葱苦手だから。」

「はいはい。」




その後に彼が呟いた言葉は純粋に俺の頬を緩めさせた。


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