木漏れ日(エンディミオン、ネフライト)



「もうすぐ18になる。」

何が、と言わなくても通じる位には、彼らとは長い間共に過ごしてきた。

「おう、そうだな。今年も盛大にマスターの18歳のお誕生の儀を祝わせて頂きますよっ」

少しおどけて言うネフライトから何となく目を逸らして小さく返事をする。

「マスター?」

「…セレニティに聞かれたんだ。誕生日はいつか、と。地球の人間は毎年生まれたその日に祝うということを誰かから聞いたんだろうな。
月の住人は、そもそもの寿命が長い。だから地球のように毎年祝うことはしないらしい。地球で数える何年かに一度、そういう日があるそうだ。」

「へえ。」

「…俺達は、流れている時の速さが…違いすぎる。」

ざあっと風が吹いて、その後はセミの鳴き声すらも途切れて不意に緑の森は静かになる。


「…それを考えていたからさっきの狩りは無茶苦茶だったというわけか。」

「すまない。」

「いや、全然。むしろそういうのは大歓迎だ。悩むだけ悩みまくったらいいんだよ。例え、答えなんかなくてもな。理由なんか無くても気付いたら誰かを好きになってるのと同じように、世の中には答えなんて無いもののほうがごまんとあるんだ。
それに、そうやっていろんなことを悩むのは無駄なんかじゃないさ。
もしまた悩んだらこうやって零してくれればいつだって聞いてやる。きっとあいつらだって何だかんだ言ったって同じ事を思ってると思うぜ。」

「…ネフライト…」

「それに、一つだけ。絶対間違いないってことがあるな!」

「え?」

「マスターが、セレニティ殿を好きで好きでしょうがないってことだ!」

朗らかに笑いながら言う彼に、気を張っていた心と体がふと和らぐのを感じていた。

「…ああ。それだけはこの先も変わらない。お前達にとっては迷惑にしかならない感情だと分かっているけれど…な。」

「何で。いいじゃねえか。俺はそういうマスターが好きだぜ!」

背中をバシバシと遠慮なく叩いてくる隣の男のことを俺も好きだと思う。

「あんまり俺を甘やかさないでくれ。」

「甘やかしてなんていないさ。王子の成長を喜んでいるだけだ。」

「…そうか。」

俺が微笑んで言えばネフライトは二カッと笑って今度は肩にばしんと力強い合いの手が飛んできた。

「さーて!じゃあ、そろそろ真剣勝負といくか!」

「よし。すぐに巻き返してみせるからな。」

「お!いいね、それでこそ我がマスター!」

そして俺達は再び馬に跨がり勝負へと戻って行った。




いずれセレニティに誕生日の祝いを贈られることだろう。

その時はとても嬉しいと思うのと同時に、さっきの考えが心のどこかに影をもたらすだろう。


けれど。俺は彼女の事が好きで


好きで


どうしようもないくらい好きだから



どんなに胸が苦しくなっても


その唯一をもって、どんな現実も受け入れていく。


喜びも、悲しみも、幸福も、辛い現実も、全て。


この大きな木陰のように彼らがいるから


休まる場所があるから


俺はあと少し

二人を分かつその時まで



自分の信じる道を歩いていこう






セレニティ

君もそうだと嬉しいな

今度はこの大きな木の特等席に君を案内するよ

これから、少しでも多くのものを君と分かち合っていきたいから






おわり
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