壁ドンをしてみよう

まもうさの場合。

※初期な二人



ドンッ!!



ビルの間の通路。横の廃ビルに男に連れて行かれたうさぎをここまで引っ張ってきた衛は、「あ、ありがと…じゃあ、」とそそくさと帰ろうとした彼女の行く手を片手を壁に付いて阻んで睨んだのだった。
初めて見る、怖いくらいに真剣な眼差し。男の顔に、うさぎは戸惑った。

「な、なによあんた!」

「お前、分かってんのか?俺が来なかったらあの後どうなってたか。」

「…っわ、わかって…る、わよ…!」

目を泳がせてしどろもどろに答えるうさぎは多分殆んど分かっていない。それを察した衛は深い溜め息を付いて眉間の皺を濃くした。

「世の中はな、お前が思ってるみたいにお優しい人間ばかりで出来てないんだ。」

「分かってる!あんたみたいにイジワルな奴もいるしっ!」

「馬鹿!そういう時限の話してんじゃない!もっと自分を大事にしろって言ってんだ!」

「え…?」













衛は下校途中、最近頻繁に会う十番中学の女生徒を目にすると、持っていた参考書を静かに閉じた。

今日は何を言ってからかってやるか…。そんな考えに心なしか速くなる歩調。彼は自身の瞳が普段と違ってどこか生き生きとしていることに気付いていない。

「おいお団子頭…」

呼びかけたところで歩みが止まる。

「わーっごめんなさい!」

「いや、こちらこそ。俺もよそ見してたから。ごめんね、怪我は無い?」

男に体当たりでぶつかってしまったお団子頭の彼女、月野うさぎは体を直角に折って謝っている。けれど優しくフォローするその男に照れたように「だ、大丈夫です!」と微笑んでいた。そしてなにやら話した後、その男はうさぎの肩に手を置いてどこか強引に歩き出した。何の疑いも抱かない彼女はにこにこと付いていく。

明らかに怪しいと思った衛は二人の後を付けて行ったのだ。

そして人気の無い廃ビルにうさぎを連れ込んだ男は雰囲気をがらりと変え、中で待っていた男たち数人で彼女を―――という場面で衛が飛び出し、その男たちを信じられない速さでコテンパンにぶちのめした為事なきを得た。

そして、自分の身に何が降りかかろうとしていたのかも気付かないまま呆気に取られるうさぎの手を取って逃げ出したのだった。そこで話は冒頭に戻るわけで――――






馬鹿と言われて腹が立つのも数秒で、自分のことを至近距離で見つめる衛の表情の真剣さに、うさぎの頬に朱が差した。

衛もこんなに近くでうさぎを見たのは初めてで、漸く我に帰り気まずそうに視線を逸らす。

「とにかく気を付けろよ。お前みたいなお子様な奴でも狙われる事だってあるんだから。」

壁の手が離れる。しかしうさぎは動かなかった。訝しく思い衛は彼女に視線を戻すと…

「うん、気を付ける…っ」

今更ながら事の恐ろしさを実感したのかそう言って、小刻みに震えながら涙をぽろぽろ流し始めていた。

「お、おいっ泣くなって…!」

「ふえ…っだって、なんかあんたのいつもの憎まれ口聞いてたら…ほっとして…っ」

「…っ」

真っ赤になりながらの無意識のその発言に衛は不意を食らって赤くなる。

「ごめん、ありがと。行くね…っ」

恥ずかしくなったのかうさぎは再び去ろうとするがそこで再びドンと壁に手が置かれてびっくりして顔を上げる。

「…送るから。」

「え?」

「今日だけ、送ってやる。」

見上げる衛の横顔は少し赤くて、瞬時に俯いたうさぎは「ふ、ふん…っ仕方ないから送られて、やるわよ…っ」と耳まで赤くしながらも小さく返した。







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