体育祭に行った彼氏VSチアガール彼女
保健室に辿り着くと、勝手知ったる衛はドアの上に掛けられている鍵を差し込んで引き戸を開ける。養護教員の五十嵐は校庭の救護テントにいて、余程の事が無い限りこの場は誰も来ないことをもちろん衛は分かっていた。
彼はうさぎを無言のまま椅子に降ろすとサングラスを外し胸ポケットに掛け、ガーゼと消毒液を用意していく。
「まもちゃん…チア、見てくれた…?」
衛のその様子を目で追いながらうさぎは小さな声で問いかけた。
ガーゼをピンセットで持ち消毒液を付けた衛はその言葉にピクリと動き静止する。そしてやはり何も答えないままうさぎの前に屈んで怪我をした左足のふくらはぎを持つと、膝にガーゼを付けた。
「…つっ…!」
「痛い…?」
傷口に消毒が染みて顔を僅かに歪めたうさぎは、そう問う衛の上げられた表情に背筋をぞくりと震わせる。
抑えきれない嵐を抱えて、口端を上げて笑顔を作ってはいても、その目は決して笑ってはいない。そもそも痛がる自分に笑いかけること自体が、いつもとは全く違うということが分かる。
ルーズソックスを履いたふくらはぎを持つ手が摩る様にゆっくり上下されていつの間にか直に触れられる。何かを孕んだその動きにうさぎの心拍数は色々な意味で上がった。
返事が出来ずにいると、衛は一度手を離し包帯を手に取ると手当てを再開する。
「うさはさ、どうしてそんなに俺に見て欲しかったの…?」
「それは…頑張って練習したし、可愛い衣装も着るし…大好きなまもちゃんに見せたかったから…」
「この衣装、そんなに見せたかった?」
巻いた包帯の先をはさみで切りもう一度射るような目で衛は尋ねる。はさみを切る音がやたらと大きく聞こえた。
「え…っと…まもちゃ…」
「俺以外もいっぱい人がいたよ。皆お前のことを見てた。そういうのは全然考えなかったのか?」
包帯を結び、目をそこに落としたままの言葉にうさぎは息を詰める。
窓が閉め切られた室内の温度が蒸し暑い。互いの息遣いしか聞こえない。それでも窓を隔てて体育祭の音楽や声援が小さく聞こえてきて。
それがこの空間が現実から切り離された世界のように思わせた。
うさぎは既に閉じ込められた籠の鳥だった。恋人という名の、籠に。
「そんなこと…ないよ。私なんかより美奈Pや、もっと可愛い子達がいっぱいいたし…っ!?」
うさぎの腿をぐっと掴んで体を起こした衛は彼女の耳もとに口を寄せる。そしてそこから放たれた次の言葉に彼女は絶句した。
「何も分かってないんだな。分かるまで―――お仕置きだ―――」
息つく事もできないほどの深いキスで衛は更に恋人の動きを封じる。うさぎの呼吸を無視したそれは貪るように荒く、激しいものだった。
「うさの言うとおり、今からお前のことたくさん見てあげるよ。」
「……!!」
「何泣きそうな顔をしてるんだ?うさの望みだろ?」
冷たい目。呼吸を乱されたうさぎに対して一切それを乱さない彼の口から出たその言葉に彼女は青ざめながらも目元を真っ赤にしてふるふると顔を横に振る。
衛はその顎を持つとゆっくりと彼女の唇に舌を這わせる。その、有無を言わせない欲望を晒した行為にうさぎの両目からは涙がはらはらと流れ落ちた。
そこへ、ふっと微笑が降りてきてうさぎの瞳は固まる。
「泣いてもダメだ。俺のことを喜ばせたいならうさはそのまま黙ってて。」
座る彼女の耳から首筋、鎖骨へと舌を這わせて胸元に落とされた唇の音が鳴る。太ももを撫でそのままスカートの裾を上げ、もう一度屈むと今度は太ももに痛みを与えるほどに強く吸い付いた。
「や…んんっ…!」
突然の刺激にうさぎは衛の頭を離そうと手にかける。しかし微動だにしない彼は更に幾つも所有の証を散らしていった。
さっきまでの生徒達の視線の先を全て消すようにその痕は散らされ、スカートをしっかり履いてもそれはもう隠し切れないだろう。
「このアンダースコートも、黒にしたのは俺の好きな色だからだろ…?」
上からそこを撫でると、もうその先の快感を知っている彼女の体は意思とは関係なく大きく跳ね上がった。しかし何とか逃れようと体をくねらせる。そんな彼女の腰を掴む手の力を強めると見上げて彼女の瞳を捕えた。
「逃げちゃダメだよ。ちゃんと…見てやるからな。他のやつらには、もう見せられないようにしてあげるから。」
剥き出しの白い腹、腰を撫でながらそれは優しく優しく紡がれる、狂気にも似た愛の言葉。
―まもちゃん―
彼の激しい嫉妬を感じ取ったうさぎは、恋人を呼ぼうとしてもその渦巻くオーラを前に声を出すことができず、唇が微かに動いただけだった。
その様子に衛は満足げに黒く微笑み、躊躇なくその顔をそこへと埋めた。