体育祭に行った彼氏VSチアガール彼女
漸く僅かばかりの落ち着きを取り戻しもう一度校庭に行ったときには応援団が丁度終わった頃で、晃が目に見えて殺気立っていて衛は状況を聞こうと賢人をつつく。
「衛、もう大丈夫なのか?」
「…大丈夫なわけあるかよ。お前は何でそんなに平気そうなんだ。」
「そう見えるだけだ。平気ではない。終わったら美奈子には夜通し反省文と説教をするつもりだ。」
こちらも黒々としたオーラで『夜通し』という言葉を強調させながら言う賢人に衛は無言の返事をした。賢人、お前もか。
「で?晃はどうしたんだ?」
「まことの姿を見てあのざまだ。最初のうちは女子生徒が彼女の凛々しい姿に騒いでいるだけだからまだ良かった。でもそのあと…」
「上を脱いで上半身はさらししか巻いてないありえねえ格好で演目を続けたんだよ!!」
晃が突如会話に加わって馬鹿でかい声で言ったところで衛は耳鳴りがしながらも全てを理解した。
チアガールとはまた別の露出の仕方に俄然男子生徒たちの目を釘付けにさせたのだろう。
要はというと、未だに固まり声も出さずに立ちすくんでいる。日傘が彼の足元に転がっていた。こちらもかなりまずい状況だ。
そんな黒く淀んだ空気に周りが一歩引いて遠巻きに見ている中、そこに光を差す様な明るい声が飛んでくる。
「まーもちゃーーん!!」
うさぎが愛しい恋人のことを見つけて短いスカートをひらひらとはためかせながら一直線に走ってきたのだった。
つい先ほどまでのアイドルが走る様を今度は周りが好奇の目で見つめる。
見るな。
衛は手をぎゅっと握り締めて思う。いつもならこうして自分に向かって自分にだけに笑顔を向けて走ってくる彼女を見るのが大好きなのに。今それをたくさんのやつらに見られているのが嫌で仕方が無い。
少しだけ収まっていた感情がそれ以上に溢れ出して来る。もう、こうなってしまったら彼女にどんなことをしてでもせき止めて貰うしかない。
その時。彼女の短い悲鳴が上がる。舞台を一つ終えて気が抜けていたのだろう。何も無いはずの場所でうさぎは盛大に転んでしまった。
「いったたっ…!」
そこへすかさず助けようと手を差し出す同級生らしき男子生徒。それは実習中にもデートを申し込んでいたまさにその男だった。
「あいつ…っ」
衛は瞬時にそれに気付くと踏み込みが見えないくらいの速さでその場へと駆け出した。
「掴まって。」
「まもちゃん!?」
膝を豪快に擦りむいた彼女はいつの間にか傍らにいた衛に驚く。そしてあっという間に膝裏に手を回されて自身の手を彼の首周りに固定されるとそのままお姫様抱っこで持ち上げられた。
「おい、あんた…」
突然の王子の登場に行き場の無い手を持て余して男子生徒は背後から声を掛ける。
「…君には言っただろ。この子には恋人がいるって。」
衛からは思わず怯んでしまいそうなほどの男の目、低い声が放たれる。
―触るな これ以上見ることも許さない―
「…!!」
白衣の眼鏡で実習に来ていた優男に見えた大学生と、今の鋭い眼で威嚇する男とは雰囲気が余りにも違って同一人物に思えなかったが。それでも彼に間違いないと確信した男子生徒は彼が何者であったのかを初めて理解した。
呆然としている彼らを尻目に、衛はうさぎを抱きかかえたまま去っていく。
実習生だった大学生だと気付いた女子生徒たちはうさぎが彼の恋人と知り落胆の溜め息をついたり羨ましげな目を向けたりと様々だ。
それでも、チアガールうさぎに盛り上がっていた男子生徒たちのガッカリした様子には敵わなかったが。
「ま…もちゃん、あの…」
「いいから。うさは黙ってて。」
お姫様抱っこされているという女子の夢のシチュエーションに恥ずかしがりながらも困惑するうさぎだったが、衛のただならぬ様子に気付いて息を飲む。
衛を怒らせてしまった?ドジばかりの自分のことを怒ってるのだろうか。それともチアがヘタで恥ずかしい思いをさせてしまったのだろうか。
うさぎは悲しいくらい見当違いなことで悩み、衛の言う通り押し黙っていることしかできない。
静かになった彼女を衛はぐっと力を込めて抱きかかえると、そのまま実習でも使っていた保健室へと運んでいく。
無自覚で無防備な彼女に愛の制裁を下すために―――
