僕らの日常
「レイさんは、俺のこと本当に好きなのかな。」
最後に残った瑛二は、自分で淹れたコーヒーを不味そうに飲んでからそう言った。
「瑛二さん!?どうしたんですか、もっと自信持ってくださいよ!」
そう言ってうさは慰めようとするが、俺は正反対のことを思っていた。
「瑛二、そんな風に思うくらいなら付き合うのなんてやめろ。」
「まもちゃん!?」
驚き俺を見るうさと眉間に皺を寄せて俯く瑛二。
「お前、レイちゃん本人にそう言われたのか?」
「…いや。」
「直接瑛二が聞いてみたのか?」
「違うけど…。」
「憶測だけでそんなに悩むくらいなら付き合うのやめたほうがすっきりするんじゃないか?」
何も答えない瑛二を見兼ねてうさが口を開く。
「ま、まもちゃん!いくらまもちゃんでも言い過ぎだよ!!瑛二さんが可哀想!」
「…レイちゃんのほうが可哀想だと俺は思うけどね。」
呟いた俺の言葉に瑛二は初めて顔を上げた。
「自分の気持ちを疑われるほど辛いものはないと思うよ。ましてやそれが自分にとって大事な人からだとしたら。」
「瑛二さん、レイちゃんの性格上、嫌いだったらとことん突き放すし一緒にいることなんて有り得ないと思います。」
「…そうか…。二人の言うこと、よく分かったよ。本人に何も聞かずに悩むなんて駄目だよな。
恋人なのに相手を無視してるのと同じだ。
だけどどうしても不安になってしまうことがあって。二人に聞いて欲しいんだけど、いいかな?」
瑛二の表情はどこか切実で、ただぼやきたくてさっきみたいなことを言っているのではないことを物語っていた。
だから俺は黙って頷き話の続きを促した。
「レイさんと一緒にいると、いつも何か越えられない壁みたいなものを感じるんだ。すごく近くにいるときでも目に見えない壁がある。
それはなんだと思う?」
「壁?」
俺が聞き返していると、うさは何かを思い出したように「あ」と漏らした。
「いつだかレイちゃん言ってました。自分は恋をするとその人の全てが欲しくなって駄目にしてしまう…みたいな。」
「え?」
「意外と束縛するタイプなんだな。クールに見えて内側には情熱と炎が隠れてるのか。」
俺はうさの話に納得して呟くと、瑛二は顔を赤くしていた。
「じゃあなんで壁を作るんだよ…。」
「だから、お前を束縛しすぎてしまわないようにだろ?」
「それだけ瑛二さんのことが大事なんですよ♪いや~ん瑛二さんの幸せ者~!」
いよいよ真っ赤になる瑛二はボソッと何かを呟いた。
「どうした?」
「…いいのに。」
「え?」
「俺はレイさんにだったら束縛されてもいいのに!もう俺の心はとっくに彼女に捕らえられているんだから。」
この言葉を放った時の瑛二の表情は、今日の中で一番輝いていて眩しいくらいだった。
しかし自分から束縛されたいなんて言う男には初めて会った。
…いいのか?
「俺は壁を越えてみせる!レイさんの本当の心と向き合うために!!」
立ち上がって拳を握り締める彼は自信と決意にみなぎっていた。
「瑛二さん頑張れ~!」
万歳しながら応援するうさと、「ありがとう」と爽やかに言う瑛二に苦笑しながらも、本人が幸せならばそれも一つの選択か。と思ったりもするのだった。
