僕らの日常
「何かな、うさぎさん。」
緑茶を啜る賢人をそれこそ穴が開くほど見ていたうさに目を開けずに彼は尋ねた。
「え?あ、なんだか賢人さんておじいさんっぽ…いや大人っぽいな~っと思って。」
うさ、全然隠せてないから。
あははと笑いながらごまかしている彼女に心の中で溜め息を付く。
「そんなに年寄り臭いかな。」
苦笑いを浮かべながらうさを見る彼はどことなく侘し…いや、寂しげだった。
「まあ、俺らの中では一番落ち着いているようには思うけど…。」
「衛、それは本当にフォローする気で言っているのか甚だ疑問なのだが。」
強いて言うならその口調も少し年寄りというかなんというか若者らしくは無いと思う。でもそれは敢えて言うことも無いだろう。
「美奈子にも言われたんだ。俺といてもなんだかテンポが合わなくて自分ばかりが血気盛んな器の狭い人間に思えてくるらしい。
否定もしなかったが。」
「あー酷い!!美奈Pばっかり悪者にしないでください!!ああ見えて結構繊細なんですよ!?」
「繊細…。」
その言葉で賢人は黙り込み、しばし思いを巡らせている様だったが、ふうと溜め息を付いて緑茶を啜る。
「悪いがうさぎさん。うちのはそんな細やかなところは無くってね。勿論あっていいんじゃないかと思ってはいるが、良くも悪くも美奈子は美奈子だ。」
「むう…」
「でも俺はそんな美奈子も悪くないって思ってる。だから否定もしなかった。変に飾り立てられるほうが好かないからな。」
そんなゆっくりとした口調の中に緩やかに、でも確かに美奈に対する想いが感じられて、俺とうさは黙って賢人を見つめていた。
「しかし美奈子は俺のこういう年寄り臭いところが嫌いらしい。それで今日はここに来た。」
「え?」
「普段の二人がどういう風に愛を形にしているのか教えてはくれないか?」
「「は!?」」
唖然とする俺とうさのことを酷く真剣な目で見つめる賢人。
彼に関しては良い雰囲気で終わりそうな予感がしていたのに大真面目に言った彼自身のとんでもない言葉でそれは脆くも崩れ去った。
「み…美奈Pだって賢人さんの年寄り臭いところが本気で嫌いなわけじゃないと思います!!」
「そうだぞ賢人!年寄り臭いの何が悪い!町を歩く何も考えて無さそうな顔の若者たちよりもよっぽど物知りで頼れるってことじゃないか!!」
「やはり俺は二人が口を揃えて言うほど年寄り臭い…か。」
影を作って暗く言う賢人に俺たちは冷や汗が浮かんだ。
「と…とりあえず!賢人だってそのままでいいんじゃないか?俺たちのその…そういう事を見たところでお前らにはお前らなりのやりかたがあるわけで。二人にとってはそれがベストだと思うから。」
言っていて自分が何やらとてつもなく恥ずかしくなる。
なんなんだもうこの超がつくほどの個性的な奴らは!!
…て、全員俺の友人なんだけど。
「なるほどな。確かにそれもそうだ。」
納得してくれたようで安堵の息を吐く。
「あ、でも美奈P言ってました。あまりにも賢人さんが淡白だから自分には魅力がないんだとか女らしくないんだーとか…。」
うさが言うと賢人は見たことも無いような柔らかな微笑みを浮かべた。
「それは良いことを聞いたな。」
「え?」
「美奈子はそういうところが可愛い。そう思わないか?」
そ…そんなキラースマイルで言われても困る。
隣の彼女を見て慌てる。
うさも例に漏れず普段仏頂面な賢人が見せる突然の笑顔に真っ赤になっていた。
彼女にこんな顔をさせ続けるわけにはいかない。
彼氏として。
「よし、美奈の本心も分かった事だしこれから行ってこいよ。」
美奈とは上手くいってほしい。
これは友として。
「そうする。」
そして静かに席を立つ賢人は入ってきたときの殺伐とした雰囲気は消え去っていた。
「うさ、いつまで顔赤くしてるんだよ。」
「うえ!?あ!!これはそのっ!!」
パタパタと手で顔を扇いで慌てる彼女に苦笑する。
「まあ、普段ポーカフェイスの賢人があんな顔をするのは俺も予想外だったけどな。」
「そ…そうそう!びっくりしたよ!うん。びっくりしただけ!!」
「ったく。あんまりそういう顔を他の男に見せるなよ。」
耳元で小さく呟くと、さらに顔を赤くするうさに満足した俺は、彼女の頭をツンと小突いた。
