僕らの日常
「あの大男帰ったの?」
要がティーセットを運んできてローテーブルに置く。
「ああ帰った…って、ちょっと待て。俺そんなに高そうなティーセットなんて持ってなかったぞ?」
「ああ、私がいざというときの為に用意しておいたのよ。あの棚の中に入れてたけど気付かなかったの?」
いつ
どこで
なぜ俺の家のキッチンに
しれっと言う要に対してそういった疑問がいくつも浮かんだが、もう何を聞くのも面倒になってきた。
「ああそう。」
適当に返事をしていると、俺の前にもカップが置かれた。
「こんなお高いティーセットで淹れたんだもの。一人で飲むのは味気ないから衛もどうぞ。」
「あ、ありがとう。」
「ちょっと要さん!私のは!?」
「何で私がうさぎに飲み物を用意しないといけないのよ。『自分のことは自分で』しなさい。ね?衛。」
意地悪く俺の言った言葉を伝える彼はこちらにニッコリと微笑んでくる。
よし。話を聞いて一刻も早く帰ってもらおう。
そうでなければ隣に座るお姫様の機嫌がどんどん悪くなる一方だ。
ちらりと彼女を見ると膨れた餅のような頬になっていてその考えは一層明確になる。
「で、要はどうして家に来たんだ?」
「別に?用もなく衛の家に来ちゃいけない?」
「いや、そんなことは言ってないさ。」
俺が少しばかり慌てているとうさが首を傾げていた。
「あれ~?亜美ちゃん今日は塾も無いし、予定無かったと思ったけどなあ。デートしないんですか?」
「この馬鹿娘!出来てたら来ないわよ!!」
地雷を踏んだらしく要はうさのことを思いっ切り大声でそう言って睨んだ。
「お…落ち着けよ。で、なんで亜美ちゃん来れないんだって?」
立ち上がった要を宥めて座らせる。
「……風邪引いたらしいわ。」
「亜美ちゃんが風邪?珍しい…」
「あんたが風邪引くほど珍しくも無いわよ!」
すぐさま言い返されてうさは口をパクパクさせていた。
「見舞いに行ったら?」
うさの頭を軽く叩いて宥めながら聞く。
「私だってそう言ったわよ。でも絶対絶対死んでも来るなって断られたわ。しかも電話はそのあとすぐに切れて、何度掛け直しても出ない訳。」
「死んでもか…」
俺は苦笑しながら言った。
「あーでも分かるなあ。亜美ちゃん、要さんのことがすっごくすっごく大事だから絶対に移したくないんですよ。」
「な…それは…でも…」
途端に口ごもる要。極端な動揺は見せていないが、うさの相変わらずの素直な物言いに照れているのは明らかだった。
「で~も~、絶対行くべきです!」
「「え?」」
俺と要の声が重なる。
「女の子って、弱ったときに好きな人に頼りたいって思ってるものですから!
きっと亜美ちゃんもそうなんじゃないかなあ。
えへへ!私またまた良いこと言ったかも~♪」
「調子に乗らないで頂戴。それにその答えは不正解よ。亜美って変な所で意地を張るから。全く、あれは天性の甘え下手ね。」
「じゃあお前はどうするんだ?」
天性の甘え上手な彼女を横に聞くのはなんとなく忍びなかったが訊ねた。
「別に。どうもしない。だからここにいるの。お泊まり道具もバッチリよ♪」
いやいやいやいやまて!
失われた休日がそれでは取り戻せなくなってしまうではないか。
「今日は無理だ。泊まるのは別の日でいいだろ?そうだな…明後日なら空いてるから。」
敢えて冷静に表情を作って整然と言う。
「今日はうさぎを泊めるの?へ~?ふ~ん?」
「…なんだよ。」
「衛ったらいつからそんなに節操無しになったのかしらと思って。」
「あのなあ!」
要の言葉に、かあっと顔が熱くなって叫ぶ。
それを見て要は面白そうに笑う。
「さて、ヨレヨレ隙だらけの亜美の所にでも行ってくるわ。考えてみれば色々とチャンスよね。
それにこれ以上あなたたちバカップルに付き合うのもアホらしいから。」
ひとしきり笑ったあとそんなことを言う要に深い溜め息を付く。
「見舞いに行くのは俺も賛成だけど、亜美ちゃんの頭痛を増やすようなことはするなよ?」
「分かってるわよ。」
じゃあねとヒラヒラ手を振って軽やかに部屋を出ていった。
「あのお泊まり道具…最初から亜美ちゃんのところに行くために…?」
「だろうな。」
「なんだかんだで二人ってラブラブな素直になれないバカップルだね♪」
「…。」
