風邪を引いたカレカノ
ジェダレイ
※大学時代
「瑛二くん、風邪引いたらしいわよー?」
「…知ってるわ。うちのバイト、昨日から休んでるもの。」
「ちょっとーレイちゃんたらそれだけ?冷たいんじゃなーい?」
「普通でしょ?あんたが熱すぎんのよ。」
パーラークラウンで美奈は納得いかない顔をして何だかんだ言いながら私のクリームあんみつのクリームとあんこをがっつりすくって口に運んだ。
「ちょっと。やめてよ。」
「やめまっせん!カレシが熱出して寝てるっていうのに私とのんきにあんみつ食べてるから早く終わるように手伝ってるんじゃない!」
「…今診察中なのよ。」
「へ?」
あんこを口端にくっつけた美奈から何となく目を逸らして告げる。
「あの病院、いつも混んでるからここで待つことにしたの。」
頬杖を付いて窓の向こうに見える病院を指差して言うと何の反応も無いから嫌な予感がしつつも顔を正面に向ける。
そしたら本当に心底殴り飛ばしたいようなにやけた顔をした美奈がいた。
だから嫌なのよ。あんたと彼のこと話してると、結局恥かいた気分になるんだから。
勝手に赤くなる自分が恨めしい。
とにかくその空気に耐えられなくて、すっと立ち上がると財布を開いた。
「そろそろ行くから。これ、あんみつ代。あんた出るとき一緒に払っておいて?」
「そんなっ美奈子利用されたの!?彼氏の出待ちの暇つぶしに使われたの!?」
「勝手に言ってれば?御機嫌よう。」
元はといえば、一人でここにいた私を見つけて同席したのは美奈の方。そんな風に揶揄される謂れは無いわ。
さっと髪を手でかき上げて踵を返す。
「ちょっとー!ゴキゲンヨー反対!オジョー言葉反対ぃーー!!」
訳の分からない叫びを背にそのまま店を後にした。
「あ、レイさん…ごめん。結構待っただろ?」
「別に。私のことはいいから。あなたのご家族は多忙でお家にいらっしゃらないんだもの。これくらいは私だってするわ。タクシー呼んでおいたから帰るわよ。」
「…ありがっ」
激しく咳き込む瑛二さんは病院に来たときと変わらず。寧ろ酷くなっているようだった。
タクシーに乗り込み運転手に瑛二さんの家の住所を告げると、隣に座る彼の辛そうな息遣いが聞こえてくる。
「……ここに、横になってもいいわよ。」
「え……?で、ええええ!?いっってっ!!」
膝を指差して、美奈には絶対教えられないような言葉を告げると、ぼんやりしていた彼が途端に姿勢を正して大きな声を出してうろたえて、その拍子に頭を打った。
さすがに呆気に取られたけど、「お客さん?大丈夫ですか?」と運転手に声を掛けられて我に返った私はやんわりと返事をした。そして真っ赤な顔をした瑛二さんをすっと横目で見て言葉を続ける。
「ご不満かしら。だったら肩でもいいけど。」
「えふっひざ!!膝で!!お願いしま…っゴホっゴホうえっほっ」
そんな死ぬほど咳しながら懇願しなくても…するのに。私がこんなに何かをしてあげたくなる相手なんて、おじいちゃんは別として異性ではあなたぐらいなのよ?分かってる?
いつもひたむきに私だけを思ってくれるあなた。不器用だけどそれだけに嘘が苦手で正直なあなた。そんな混じりけの無いあなたの優しさに、私はいつだって救われているのよ?一生言う気は今のところ無いけれど。
背中をさすってあげていた手でそのまま膝へと促した。
私のそれとはまるで違う金色のふわっとした髪に手を置き撫でると、不意に掴まれる。
「レイさん…」
「何?」
「俺、早く治すよ。」
「そうしてもらえると助かるわ。いつだってうち(神社)は人手不足なんだから。」
「なんだ…そういう意味?」
「馬鹿ね。……察しなさいよ。」
「…うん。察した。」
そこでくすくす笑われるとくすぐったいんだけど。
溜め息を付いて視線を外に向けると、窓ガラスに映る自分の表情が思っていたよりも恋する乙女に見えて、途端に居た堪れなくなった私はそれを打ち消すように前を向き、昨日準備しておいた厄除け健康第一の御守りをどのタイミングで渡そうかだとか、乗り物に乗っている最中に気分が悪くなったときの対処法はどんなだったかとか。冷静になろうと必死に努めていた。
なのに。
「レイ、好きだよ…」
そんな言葉を最後に眠ってしまった恋人に結局また心を乱されてしまった。
「ほんと、ずるい人。」
言うだけ言って、私の返事を聞く前に寝てしまうなんて。
そうよ、だから早く治して。
そして元気になったら
また同じ言葉を聞かせて―――?
おわり
※大学時代
「瑛二くん、風邪引いたらしいわよー?」
「…知ってるわ。うちのバイト、昨日から休んでるもの。」
「ちょっとーレイちゃんたらそれだけ?冷たいんじゃなーい?」
「普通でしょ?あんたが熱すぎんのよ。」
パーラークラウンで美奈は納得いかない顔をして何だかんだ言いながら私のクリームあんみつのクリームとあんこをがっつりすくって口に運んだ。
「ちょっと。やめてよ。」
「やめまっせん!カレシが熱出して寝てるっていうのに私とのんきにあんみつ食べてるから早く終わるように手伝ってるんじゃない!」
「…今診察中なのよ。」
「へ?」
あんこを口端にくっつけた美奈から何となく目を逸らして告げる。
「あの病院、いつも混んでるからここで待つことにしたの。」
頬杖を付いて窓の向こうに見える病院を指差して言うと何の反応も無いから嫌な予感がしつつも顔を正面に向ける。
そしたら本当に心底殴り飛ばしたいようなにやけた顔をした美奈がいた。
だから嫌なのよ。あんたと彼のこと話してると、結局恥かいた気分になるんだから。
勝手に赤くなる自分が恨めしい。
とにかくその空気に耐えられなくて、すっと立ち上がると財布を開いた。
「そろそろ行くから。これ、あんみつ代。あんた出るとき一緒に払っておいて?」
「そんなっ美奈子利用されたの!?彼氏の出待ちの暇つぶしに使われたの!?」
「勝手に言ってれば?御機嫌よう。」
元はといえば、一人でここにいた私を見つけて同席したのは美奈の方。そんな風に揶揄される謂れは無いわ。
さっと髪を手でかき上げて踵を返す。
「ちょっとー!ゴキゲンヨー反対!オジョー言葉反対ぃーー!!」
訳の分からない叫びを背にそのまま店を後にした。
「あ、レイさん…ごめん。結構待っただろ?」
「別に。私のことはいいから。あなたのご家族は多忙でお家にいらっしゃらないんだもの。これくらいは私だってするわ。タクシー呼んでおいたから帰るわよ。」
「…ありがっ」
激しく咳き込む瑛二さんは病院に来たときと変わらず。寧ろ酷くなっているようだった。
タクシーに乗り込み運転手に瑛二さんの家の住所を告げると、隣に座る彼の辛そうな息遣いが聞こえてくる。
「……ここに、横になってもいいわよ。」
「え……?で、ええええ!?いっってっ!!」
膝を指差して、美奈には絶対教えられないような言葉を告げると、ぼんやりしていた彼が途端に姿勢を正して大きな声を出してうろたえて、その拍子に頭を打った。
さすがに呆気に取られたけど、「お客さん?大丈夫ですか?」と運転手に声を掛けられて我に返った私はやんわりと返事をした。そして真っ赤な顔をした瑛二さんをすっと横目で見て言葉を続ける。
「ご不満かしら。だったら肩でもいいけど。」
「えふっひざ!!膝で!!お願いしま…っゴホっゴホうえっほっ」
そんな死ぬほど咳しながら懇願しなくても…するのに。私がこんなに何かをしてあげたくなる相手なんて、おじいちゃんは別として異性ではあなたぐらいなのよ?分かってる?
いつもひたむきに私だけを思ってくれるあなた。不器用だけどそれだけに嘘が苦手で正直なあなた。そんな混じりけの無いあなたの優しさに、私はいつだって救われているのよ?一生言う気は今のところ無いけれど。
背中をさすってあげていた手でそのまま膝へと促した。
私のそれとはまるで違う金色のふわっとした髪に手を置き撫でると、不意に掴まれる。
「レイさん…」
「何?」
「俺、早く治すよ。」
「そうしてもらえると助かるわ。いつだってうち(神社)は人手不足なんだから。」
「なんだ…そういう意味?」
「馬鹿ね。……察しなさいよ。」
「…うん。察した。」
そこでくすくす笑われるとくすぐったいんだけど。
溜め息を付いて視線を外に向けると、窓ガラスに映る自分の表情が思っていたよりも恋する乙女に見えて、途端に居た堪れなくなった私はそれを打ち消すように前を向き、昨日準備しておいた厄除け健康第一の御守りをどのタイミングで渡そうかだとか、乗り物に乗っている最中に気分が悪くなったときの対処法はどんなだったかとか。冷静になろうと必死に努めていた。
なのに。
「レイ、好きだよ…」
そんな言葉を最後に眠ってしまった恋人に結局また心を乱されてしまった。
「ほんと、ずるい人。」
言うだけ言って、私の返事を聞く前に寝てしまうなんて。
そうよ、だから早く治して。
そして元気になったら
また同じ言葉を聞かせて―――?
おわり