僕らはまだ知らない



前世ではいつだって相談するのは王子だった俺の方で、四天王である彼らはいつも何でも聞いていてくれていた。


だけど――――






~西園寺要の場合~










「あーもう!自分が信じられないわ!!」


そう言って飲んでいたモスコミュールを一気に空にして頭を軽く抑えながらイライラと吐き捨てたのは西園寺。


ここは西園寺行き付けの小洒落たバーで、俺達二人は大きな壁一面の水槽と様々な銘酒のボトルを前にしたカウンターに座っていた。


「だから、何がだ。」

さっきから自分はこんなじゃなかった、何でこうなったなど言うばかりでなかなか核心に触れない彼にさすがに苛立ってきた俺は、頬杖を付いて溜め息混じりに聞き返した。



「亜美に対しての性的欲求が抑えられないの!」


ガタッ


頬杖を付いていた腕が今の衝撃的発言で勢いよくずれて危うく自分のグラスを倒しそうになる。


「え…えーと…?」

「マスターお代わりね!ジントニックでキツーいのお願い!!」

俺と同様に困惑して張り付いた笑顔をして正面に立っていた(前世の俺ではなく店の)マスターにグラスをクイッと差し出す西園寺はよく見ると頬が紅潮していた。

彼は俺達の中で一番酒には強くて全然赤くなったこともないから、それは酔っているせいなどではないことに気付く。


「亜美はね、もう本当にイライラするほどお子様な訳。この私が恋人であるにも拘わらず、平気でデートよりも模試を優先したり、会ったって手を握るのも真っ赤になって拒んだりするのよ!?」

「うーん…まあ、亜美ちゃんらしいなとは思うけど。」

水割りロックをカラカラと回しながら苦笑して答える。

横にいる西園寺は新しいドリンクを手に持つと、これまた一気に飲み干して「お代わり!」と注文した。

「おい、あんまり飲み過ぎるなよ?」

「平気よ!これっくらいじゃ全然酔わないんだから!それより聞いてよ。この前亜美を家に呼んだの!」

徐々に怒りを増しながら言う友人に、これは最後まで聞かなければ収まらないと悟り、黙って耳を傾けることにした。

「私のピアノが聴きたいって言うから弾いたの。そしたら亜美の方から珍しく隣に腰掛けてきて、チラッと顔を見たらやっぱり真っ赤にしてる訳。
それでこれはキスくらいはしてもいいかしらって思ったのよ!なのに演奏が終わったら…!!」

「…」

「寝てんのよ!!私の肩を枕になんかしちゃって!!」

なんなんだろうこのノロケ話は…。

「普段真っ赤にして私を怖がってるくせして何なのよあの無防備な寝顔はー!!」

「要、声押さえて」

「そりゃ襲いたくもなるでしょー!!」

俺の忠告もスルーして再びとんでもないことを絶叫する西園寺。


店内は微妙な静寂に包まれる。

「…で?」

やれやれと聞く俺に黙る西園寺。
何も言わない彼に一つの不安が過った俺は、声を落として尋ねる。

「要?…お前まさかそのあと…」

「してないわよ!できる訳ないでしょそんなこと!!」

勢いよくこちらを向いて真っ赤にしながら拳を握り締め反論された。

「あんな安心しきった顔で寝られたら何もできないわ当然でしょう!?
あーもう!何でこの私があんな小娘にずっとお預けを食らわなくちゃいけないのよ!」


なるほど…そんな状態だから余計に欲しくなるのだろう。分からなくは無いけれど。

「お前…本当に亜美ちゃんが好きなんだな。」

「そ…そんなこと今言ってるんじゃないわ!」

「そういうことだろ?」

「違う!私は何でこんな中学生みたいな恋愛をしなくちゃならないのかって…」

「はいはい。」

「もう衛!!」





西園寺が亜美ちゃんを翻弄しているのだとばかり思っていたけれど、付き合ってからは彼女のほうが彼のことを振り回しているみたいだな。


「お互い天然の彼女を持つと、苦労するな、要。」

チン

持っていたグラスをまた新しく注がれた西園寺のグラスに重ねて微笑んだ。

すると怒ったような困ったような表情で俺を見ると、深い溜め息を付いて何も言わずに西園寺も俺のグラスに音を立てて自分のそれを重ねた。





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