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「マスターはどちらに行かれたか見なかったか?」
「クンツァイト様…っ!!私は…ぞ、存じ上げません…っ」
私が臣下に声を掛ければその男から怯えたようにそう返事をされて、溜め息を付く。
隠しているのは明らかで、しかしそれはマスターへの忠義からではなくマスターへの恐怖からくるものだ。
マスターは変わられた。それは、月のプリンセスとの秘密の関係が断ち切られた時からで、その変貌は火を見るより明らかだった。
一切に心を開かず、笑うことすらなくなり、国政を担い重責を全うしながらも容赦ない振る舞いは『冷酷で残酷な支配者』と臣下のみならず、民からも恐れられていた。
このままではいけない。いずれ誰かが立ち上がり反乱が起こってしまうこともあるだろう。直属部下の四天王の我らはそれを危惧し、マスターにもお心を改めて頂こうと何度も進言した。
しかし。同時に私達は、マスターが最愛の人を失ってしまったという悲しみを他の誰より理解できた。
マスターの想い人は月の住人。
それは我らも同じだったから。
交流をいくら断ち切っても、想いだけは断ち切ることなどできない。
それが分かるからこそ、いや、分かるからと言って強く言い切れない私たちは、きっと臣下として失格だろう。
「お前が喋ったということはマスターにも言わん。どこでお見かけしたんだ?」
震える男の肩に手を置き、私は小声で出来る限り安心させようとゆっくりとした口調で問いかけた。
「あ…書庫…に、入るところをお見掛けしました。ですが、私のことを見るなりこのことは黙っていろと強く申し付けられて…っ」
ただの書庫に入るだけだというのに黙っていろとは、おそらくマスターは…―――
「大丈夫だ、教えてくれて感謝する。もう行っていいぞ。」
「は、はい…っ」
このままでは地球国の全ての人間の心がマスターから離れて行ってしまう。なんとしてでも以前のマスターにお戻りいただかねばならない。
そして前へと進んで頂かなくては。
最初から、月のプリンセスとの恋は、
『棄てなければならない恋』だったのだから。
