6
「セレニティ……っ」
全て読み終えて、目の前の暗い靄が晴れるかのように、黒くは無い透明な涙が頬を伝うのを感じて。
俺は漸く本当の彼女の姿が見えた。
ベッドに横たわる青白い顔をした彼女。
真っ赤に痣が付いた痛々しい両手首。
無数の涙の痕。
収まりきらなかった俺の欲望が腿へと無残に流れ落ちていて。
己の一方的で狂気のみをぶつけてしまった行為をまざまざと思い出し血が逆流するように呼吸もままならず、がくりと体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
「…っく、う…あ…あああああああっ!!」
裏切ったのは彼女のほうだと思っていた。
愛しいという気持ちだけを俺に残して。いなくなって。俺を独りにして。
でも彼女はこんなにも独りで抱えて悩んでいた。
俺を出会ったときから今までずっと、むしろ、より深く俺のことを愛してくれていた。
優しい彼女が、自分の母親と俺との狭間でどちらが大事か天秤に掛けることなんて絶対に出来るはずない。
俺の全てを全部、全部包んで、その心を生涯俺に捧げることまで誓ってくれていたのに。
俺は、俺は……っ
俺が…!そんな彼女を裏切ったんだ。
彼女の真心を踏みにじったんだ。
「セレニ…っ!」
「エンディミオン……?」
先の俺の咆哮のような泣き叫んだ声に目覚めた彼女は目を見開いて、辛いはずのその体を起こしてまで俺の顔を心配そうに包んでくれた。
そんな彼女の無償の愛が。温もりが、優しさが。俺の流れ落ちる涙が止まる要素を全て消していく。
「ご、めん。ごめんセレニティ…!!」
真っ直ぐに彼女の空色の瞳を見つめて嗚咽に混じって掠れた声で肩を震わせながら何度も、何度も。その言葉を繰り返す。
すると彼女は泣き笑いのような表情になって、涙をぽろぽろ流しながら俺のことを華奢な手で精一杯抱き締めてきた。
温かい。体だけじゃない。俺の心にも、温もりが戻ってくるのを感じて、また涙が溢れる。
「やっと……わたしのこと見て、くれた…っ」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに、ただ、それだけを。
酷い行為を責めることも無く。ただ、俺が自分のことをちゃんと見てくれたことが嬉しいと。
そんな、心から愛しくて大切な恋人に、今この気持ちを伝えるならば、やはりこの言葉しか見つからなくて。
「あいし…てる…よ…」
「あいしてる……っ」
今このひと時は幸いを。
そして常しえに続く想いを。
繋がった言葉、繋がった心。重なる唇。
それは同時に離れる決意を含んだものであることを、俺達は互いの胸の中に静かに落とした。
