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別の人かと思ったの。だって、彼の目はもう、私のことを見ていなかったから。
何を見ているの?何を思っているの?
固く、表情を無くした彼は、声だけが昔のままで。喋り方もとても優しくて。
それがかつて彼に抱いたことの無い恐怖を私に与えた。
でも
今彼は微笑んでいる。
私の手を拘束して、頬を撫でて、
「これで、安心だろ?」と。
あまりの衝撃に何も話せなくなった私のことを蹂躙する彼は、今まで無かったほどの激しさで全てを奪っていく。
体の震えが止まらなくて。それでも何度も彼に愛されたことのある体は心を置いていくかのように受け入れるための準備をしていって。
心に素直に従うのは瞳から零れ落ちるものだけ。
見たことの無い彼を目の前にした恐怖。
私の言葉が何も伝わらない悲しさ。
そして
彼をこんな風に変えてしまった自分の罪への嘆き。
優しくて温かくて、私のことを心から愛してくれた彼のことをこんなにも壊してしまった―――
その事実への悲しみが、後から後から涙となって頬を滑り落ちていく。
「エンディミオン…っ」
繋がってからは彼の狂気の中の、切なさと深い悲しみが一層伝わってきて。私はもう彼の名を掠れた声で呼び続けることしかできない。
「俺には…君だけだ。君しかいらない。君だけが…俺の…っセレニティ…!」
愛してる愛してる愛してる愛してる
何度も何度も紡がれるその言葉すら、私に向けているようでいて、どこか彼の中の『私』という遠い存在に囁いているようだった。
まるで、記憶の中の私を抱いているような。そう思って居たたまれなくなって彼のことを抱き締めようと手を伸ばしたいのに。
きつく縛られた布が手首に食い込むだけでそれもできない。
「っエンディミオン……!」
涙がどんどん流れてそれが耳の中にまで伝っていって。ごうごうと嵐のような音が聴こえる合間にも彼の吐息に混ざった愛を告げる囁きが鼓膜を震わせて私を恐怖と切なさの狭間に連れ込み、混沌とした深い想いを身体中に染み渡らせていく。
全ての現実から目を背けて、心を閉ざしてしまった彼。
それが何よりも辛かった。
長い時間抱かれ続けて、彼が私の中で爆ぜて私も何度目かの迎えたその瞬間。目線が宙をさ迷い瞳を閉じる寸前に見えたのものは、優しかった彼の記憶が詰まった、床に落ちてしまっていた押し花の本。
――セレニティ、愛しているよ――
柔らかな微笑みを浮かべて私の頬を愛おしく撫ぜてそう言ってくれた彼は…もういない
もう、いないの―――?
かつての彼の笑顔が蘇った瞬間胸が張り裂けそうに痛くなって。閉じた瞳からは新たに溢れた涙が零れていった。
ごめんなさい…エンディミオン……
