9 鎮魂歌

「ジュピター…あんたの大事な庭園…一度しっかり見たかったぜ…。」

激しく頭痛と吐き気が襲い、死がそこまで来ていることを悟りながらも、腕に抱く彼女にそう囁く。


2人は横倒しになりながらもしっかりと相手に腕を回していた。


「大丈夫…すぐに見せてやるよ…もうすぐ…一緒に行けるから…」


2人はそのまま現実の世界に終わりを告げる。
そして夢か幻のような美しい庭園を想像してその世界の中で微笑み合っていた。



『綺麗だ』



『当たり前だろ?』



いつものように交わされた何気ない会話。

一面の花に覆われた世界はそれを最後に泡のように消えていった。


その世界でも、冷たい地面に横たわる今も、2人はきつく抱き合ったままで――――






「ばかね…私なんかを庇って…。あなたも死ぬじゃない…。」

覆い被さるように自分を抱きかかえるクンツァイトにヴィーナスは徐々に薄れていく意識の中で言う。

彼は力無く笑い、その右手を彼女の左手の指に絡める。

「言っただろ…?俺はもう…お前から離れない…って…。」

苦しくて話すことも困難だったが、それでも彼は最後まで想いを伝えたかった。


「頼んでないわよ…」


「ふ…っ酷いな…。」

相変わらずの切り返しにクンツァイトは笑う。
ヴィーナスにも僅かに微笑みが浮かぶ。

「生まれ変わったら…また会えるかしら?」

「会えるさ…もちろん…。」

ヴィーナスは腕の中で最後に心に秘めた想い。


―あ い し て る―


戦士としてでなく、一人の女性としての、愛する人への言葉。

だがそれを声に乗せて伝えることは最早できず、代わりにクンツァイトのことを涙を溜めた瞳を携えて精一杯微笑む。


そしてゆっくりと瞼を閉じた。



体の力が抜け、永遠に呼吸が止まる。

けれどその表情はとても安らかで、愛の女神の美しさは少しも薄れてはいないようだった。


「ヴィーナス…」

クンツァイトは愛しい人の為に涙を流す。
そして自然と導かれるように彼女の顔に近付けて…


銀髪の青年は眠る金星の女神にキスを落とした。




―愛してる―





そしてそのまま彼女に深く体を沈めて、彼もまた静かな世界に身を委ねていった。幸せそうな表情を残したまま―――――






こうして若く美しい志を持った彼等は戦場に散る。


その傍らにはまるで墓標のようにプリンセスのパールの付いた聖剣が地面に突き刺さっていた。




それは、世界が終わりを告げるほんの少し前の出来事――――

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