第一話 『私の幼馴染』



「それにしてもうさぎってば、毎朝両手に花よね。」

「えー?」

教室に入ると美奈子ちゃんは腕を組んで若干機嫌悪そうに言ってきくる。高等部は校舎も離れていていつも校門で幼馴染達とは別れていた。

「黒月兄弟!めっちゃくちゃカッコいいじゃない!!あの人たちがうさぎの幼馴染だなんて世の中ほんっとに不公平!!」

「かっこいい…ねえ。」

小学校から知っているから全然そんな意識も無い私は思ったままの表情で言ったんだけど…更にまこちゃんまで入ってきて二人がかりで怒られた。

「うさぎ、あんまりにもイケメンに毎日会いすぎて感覚がおかしくなってんのかもな。ったくぜーたくな悩みだぜ。」

「大丈夫だよまこちゃん、私全然悩んでないもん♪」

その言葉にレイちゃんが溜め息をつく。

「うさぎがこの調子じゃ会長の想いも一生報われないままね。」

「ええ。流石にちょっと不憫になってくるわ…」

「え?なになに!?レイちゃんも亜美ちゃんも!」

「別に。」「何でもないのようさぎちゃん。」

つーんとそっぽを向いて言うレイちゃんと困った笑顔で返す亜美ちゃんにハテナマークが広がったけど、結局そこで本鈴が鳴ったから慌てて自分の席に付いた。





「ねえねえ、高等部の校舎に潜入しなーい?」

お昼休み。お天気もいいから中庭でお弁当を囲んでいた私達だったんだけど、美奈子ちゃんが何だか企み顔でそんなことを私にだけ小声で提案してきた。そして私の返事を待つことも無く。

「私とうさぎ、トイレ行ってきます!」

と腕をグイと引かれて立ち上がる。

「ちょ、美奈子ちゃんっ」

「いーから!どーしても会いたい人がいるの。付き合ってよ!」

とまたしても小声で言いくるめられてしまって。残された亜美ちゃんたちの何となくお見通しな表情をすり抜けて高等部の校舎に腕を引かれていったのだった。



「ねえ誰なの会いたい人って。」

高等部の校舎の廊下を歩きながら尋ねる。出入りは自由だけど、やっぱり中等部の生徒は殆んどいなくてどことなくすれ違う先輩達に見られている気がする。

「天王はるかさん♪前に一度だけバレー部の助っ人で来てくれたんだけど、それがもーーーすっごくかっこいいの!」

「ん?美奈子ちゃんの部活の助っ人ってことは…女の人?」

「この思いさえあれば男でも女でもかんけーない!とにかく本当にカッコいいから!!それにね、一緒にいる海王みちるさんもとても素敵な人で憧れなのよー!少しでもお話ししてお近づきになりたくって♪♪」

「ははは…美奈子ちゃんのミーハーはきっと世界を救うよ…」

「あーりがとーうっ!!」

さすがの私もちょっぴり呆れてしまうほどなのだけど、でもこの底抜けに楽しい親友が私は大好きだ。

美奈子ちゃんはスキップしながらお目当ての教室に向かっていく。ちょっと間が空いてしまって慌てて後を追おうとした時だった。

「おい。」

「あーちゃん!?」

「やめろ。」

「え?」

「その呼び方だ。馬鹿女。」

「あっごめんごめん!」

「騒々しいぞ。お前もあの愛野という生徒も。」

「もう!私のことは言っていいけど、友達のこと悪く言うのはやめてよね!」

「知らん。丁度いい。お前、この本を図書室に返しておけ。」

「は…?ええ!?」

どさどさどさっと分厚いまるで百科事典のような本を何冊も私に預けるとそのまますたすたと歩いていってしまった。

「もー…っ!あーちゃんのいけずーー!!」

どうしようもない状態の私はそう大声で返すしかない。もちろん言ったところで戻ってきてくれる幼馴染でもない。仕方なくそのとてつもなく重い本たちを抱えて、高等部の図書室によろよろと向かっていった。



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