第八話 『それぞれの明日』
ーー1ヶ月後ーー
「じゃあ行ってくるね♪ 」
「いってら〜 」
美奈子ちゃんに手でシッシッて追い払われるみたいにされる。うぅっひどい。
「まあまあ美奈、そんなに膨れっ面すんなよ。私達も早く彼氏作ろう! 」
「っしゃあ!!合コンじゃあ!! 」
いつもの手帳を取り出して燃え始める美奈子ちゃんに亜美ちゃんが溜息をついた。
「美奈、私達まだ中学生なのよ?合コンだなんてそんな風紀が乱れる事をするのは「ランチだもん!ランチ、だもーーん!!カストで土曜日ガッコ終わったら清く正しいランチするだけ!!だから問題ナシです風紀委員長!!」
勢いに押し黙る亜美ちゃん(風紀委員長ではない)に、レイちゃんが代わって訊ねる。
「で?誰とするのよ 」
「翡翠学園の高等部の見目麗し〜〜っ人達よ!もー苦労したんだからっあの手この手でどーーにか!漕ぎ着けました!美奈子偉い!天才!!あ、そういえば一人中等部のコもいたわね。とにかく!これはチャンスよ皆! 」
愛野美奈子ちゃんという大きな嵐にのみ込まれるかのように、顔を赤くした三人は首を縦に小さく振っていた。私はそんな四人にもう一度手を振ると、高等部の校舎へと急いだ。
「まーもちゃん!おべんと食べよ♪ 」
まもちゃんのクラスに辿り着くと、教室の後ろのドアを開けてひょっこり顔を出した。そしたらちょっと遅れちゃったからかいつもの席ではなくて廊下側で待っていてくれたまもちゃんは、ホッとしたような顔をして私を出迎えた。
「うさ 」
「おや、お団子ちゃんだ 」
「あら今日は水曜だったわね、どうりでソワソワしてると思ったわ。地場くん早く行ってあげなさいな 」
「あ、ああ 」
はるかセンパイとみちるセンパイがまもちゃんに笑顔で話し掛けている。そう。毎週水曜日は一緒にお弁当食べる日って決めたんだ。私は美奈子ちゃんたちとも変わらずお弁当の時間を大事にしたかったし、まもちゃんもクラスのお友達と少しずつ仲良くしていきたいって話してくれたから二人で食べるのは週に一回にしようって私が言ったの。そしたら頭をわしゃっと撫でられて。笑う彼の顔が子供みたいに可愛くてドキドキしたっけ。
「それにしても黒王子も随分変わったよな 」
「それはやっぱりお姫様との愛の力ね。はるか、私達も今日は外でお弁当食べましょうか 」
「いいね、みちる 」
そんな二人の会話が聞こえてちょっと恥ずかしくなるけれど、まもちゃんに頭をポンと叩かれて「行くぞ 」って手を引かれたから私も元気よく返事をして屋上に向かった。
人のまばらな屋上の、梯子を登った天文台の上は誰もいない私たちの特等席。下から見るよりも案外広くて快適なの。まもちゃんはおばあちゃんの作った煮物や自分で作った卵焼きやハンバーグを次々と私の口に運んでくれる。どれも本当に美味しくて毎週水曜日はお腹の中も幸せハッピーデイなんだ♡もちろん私のお弁当の多めに持ってきたフルーツやママ作のおかずもまもちゃんにお裾分けしてる。
「週末、うさと行きたい所があるんだ 」
「行きたいところ? 」
ソース付いてるぞ、とやれやれって顔してハンカチで拭いてくれるまもちゃんはちょっと考えてから何かを決意するように強い瞳で私を見た。
「両親の墓参り 」
「あ……おじさんと、おばさんの…… 」
まもちゃんのパパとママはアメリカに住んでいる頃に亡くなってしまったことは聞いていた。まもちゃんのおばあちゃんに紹介してもらった時にそれだけ教えてくれたのだけど、詳しい事は口を閉ざしてしまって分からなかった。もちろん気になったけれど、おばあちゃんを私とまもちゃんで手伝って三人でご飯作ったり食べたりする事が本当に楽しかったから、いつか、まもちゃんが話してくれるまで待とうって決めたの。だからーーー
「もしうさが良ければだけど 」
「行くよ!こういうこと言ったら違うのかもしれないけど、嬉しいな。だって、私もおじさんとおばさんに話したい事いっぱいあったから 」
「うん、ありがとう 」
ちょっと泣きそうな顔をして笑うまもちゃんは、空になったお弁当箱を置くと背後に回って抱き締めてくる。うさちゃんは優しいなって言いながら頬を擦り寄せてくる甘えん坊さんに、私もお弁当箱の蓋をすると頭をよしよしってしてあげた。まもちゃんがふふっと笑うと擽ったくて笑ってしまう。大きな身体で私の事をすっぽり包んでいるのになんだか小さな男の子みたいで。胸の中がホワホワして、抱き締める長い腕をキュッと掴んだ。そしたら耳元で「うさ」と呼ばれる。
その声にドキンと胸が鳴るけれど、声をする方に向くとすぐ近くに大好きな人の顔があって、自然と目を閉じた。
学校の一番高いところでする誰も知らない秘密のキスは、いつだって私の特別なの。なのに。
「デミグラスソース味だな 」
「も、もう! 」
ぺろっと舌を出して悪戯っ子みたいな顔をして言う年上の恋人に、私は真っ赤になってポカポカ腕を叩いた。それなのにさらにぎゅーっと抱き締められて声を上げて笑われる。
もう。しょうがないなぁ、まもちゃんは。
「怒ってるの?うさ 」
「怒ってません! は、恥ずかしいだけですっ 」
そっかぁとやたらと嬉しそうなまもちゃんに、予鈴が鳴るまで色んなところにキスされた。
「じゃあ行ってくるね♪ 」
「いってら〜 」
美奈子ちゃんに手でシッシッて追い払われるみたいにされる。うぅっひどい。
「まあまあ美奈、そんなに膨れっ面すんなよ。私達も早く彼氏作ろう! 」
「っしゃあ!!合コンじゃあ!! 」
いつもの手帳を取り出して燃え始める美奈子ちゃんに亜美ちゃんが溜息をついた。
「美奈、私達まだ中学生なのよ?合コンだなんてそんな風紀が乱れる事をするのは「ランチだもん!ランチ、だもーーん!!カストで土曜日ガッコ終わったら清く正しいランチするだけ!!だから問題ナシです風紀委員長!!」
勢いに押し黙る亜美ちゃん(風紀委員長ではない)に、レイちゃんが代わって訊ねる。
「で?誰とするのよ 」
「翡翠学園の高等部の見目麗し〜〜っ人達よ!もー苦労したんだからっあの手この手でどーーにか!漕ぎ着けました!美奈子偉い!天才!!あ、そういえば一人中等部のコもいたわね。とにかく!これはチャンスよ皆! 」
愛野美奈子ちゃんという大きな嵐にのみ込まれるかのように、顔を赤くした三人は首を縦に小さく振っていた。私はそんな四人にもう一度手を振ると、高等部の校舎へと急いだ。
「まーもちゃん!おべんと食べよ♪ 」
まもちゃんのクラスに辿り着くと、教室の後ろのドアを開けてひょっこり顔を出した。そしたらちょっと遅れちゃったからかいつもの席ではなくて廊下側で待っていてくれたまもちゃんは、ホッとしたような顔をして私を出迎えた。
「うさ 」
「おや、お団子ちゃんだ 」
「あら今日は水曜だったわね、どうりでソワソワしてると思ったわ。地場くん早く行ってあげなさいな 」
「あ、ああ 」
はるかセンパイとみちるセンパイがまもちゃんに笑顔で話し掛けている。そう。毎週水曜日は一緒にお弁当食べる日って決めたんだ。私は美奈子ちゃんたちとも変わらずお弁当の時間を大事にしたかったし、まもちゃんもクラスのお友達と少しずつ仲良くしていきたいって話してくれたから二人で食べるのは週に一回にしようって私が言ったの。そしたら頭をわしゃっと撫でられて。笑う彼の顔が子供みたいに可愛くてドキドキしたっけ。
「それにしても黒王子も随分変わったよな 」
「それはやっぱりお姫様との愛の力ね。はるか、私達も今日は外でお弁当食べましょうか 」
「いいね、みちる 」
そんな二人の会話が聞こえてちょっと恥ずかしくなるけれど、まもちゃんに頭をポンと叩かれて「行くぞ 」って手を引かれたから私も元気よく返事をして屋上に向かった。
人のまばらな屋上の、梯子を登った天文台の上は誰もいない私たちの特等席。下から見るよりも案外広くて快適なの。まもちゃんはおばあちゃんの作った煮物や自分で作った卵焼きやハンバーグを次々と私の口に運んでくれる。どれも本当に美味しくて毎週水曜日はお腹の中も幸せハッピーデイなんだ♡もちろん私のお弁当の多めに持ってきたフルーツやママ作のおかずもまもちゃんにお裾分けしてる。
「週末、うさと行きたい所があるんだ 」
「行きたいところ? 」
ソース付いてるぞ、とやれやれって顔してハンカチで拭いてくれるまもちゃんはちょっと考えてから何かを決意するように強い瞳で私を見た。
「両親の墓参り 」
「あ……おじさんと、おばさんの…… 」
まもちゃんのパパとママはアメリカに住んでいる頃に亡くなってしまったことは聞いていた。まもちゃんのおばあちゃんに紹介してもらった時にそれだけ教えてくれたのだけど、詳しい事は口を閉ざしてしまって分からなかった。もちろん気になったけれど、おばあちゃんを私とまもちゃんで手伝って三人でご飯作ったり食べたりする事が本当に楽しかったから、いつか、まもちゃんが話してくれるまで待とうって決めたの。だからーーー
「もしうさが良ければだけど 」
「行くよ!こういうこと言ったら違うのかもしれないけど、嬉しいな。だって、私もおじさんとおばさんに話したい事いっぱいあったから 」
「うん、ありがとう 」
ちょっと泣きそうな顔をして笑うまもちゃんは、空になったお弁当箱を置くと背後に回って抱き締めてくる。うさちゃんは優しいなって言いながら頬を擦り寄せてくる甘えん坊さんに、私もお弁当箱の蓋をすると頭をよしよしってしてあげた。まもちゃんがふふっと笑うと擽ったくて笑ってしまう。大きな身体で私の事をすっぽり包んでいるのになんだか小さな男の子みたいで。胸の中がホワホワして、抱き締める長い腕をキュッと掴んだ。そしたら耳元で「うさ」と呼ばれる。
その声にドキンと胸が鳴るけれど、声をする方に向くとすぐ近くに大好きな人の顔があって、自然と目を閉じた。
学校の一番高いところでする誰も知らない秘密のキスは、いつだって私の特別なの。なのに。
「デミグラスソース味だな 」
「も、もう! 」
ぺろっと舌を出して悪戯っ子みたいな顔をして言う年上の恋人に、私は真っ赤になってポカポカ腕を叩いた。それなのにさらにぎゅーっと抱き締められて声を上げて笑われる。
もう。しょうがないなぁ、まもちゃんは。
「怒ってるの?うさ 」
「怒ってません! は、恥ずかしいだけですっ 」
そっかぁとやたらと嬉しそうなまもちゃんに、予鈴が鳴るまで色んなところにキスされた。