第八話 『それぞれの明日』
うさを自転車に乗せて今の住所を聞いて送ってやると、彼女の家の前には見覚えのある男二人が立っていた。
「ひーちゃん、あーちゃん! 」
「うさぎ 」
生徒会長の銀髪の男は俺の事をあからさまに嫌いだというオーラを出しつつ睨んでいたし、後ろの青い男は闇を纏って空っぽな目でこちらを見ていた。
「貴様には言いたい事がごまんとある。だがあえて聞いてやろう。俺たちの大事な幼馴染のことを一体どう思っている。返答によってはただじゃおかない 」
黒月会長がうさの肩をぐいっと引き寄せて刺すような視線で言ってくる。そうだよな、俺とは比べ物にならないほど長い時間一緒にいたのは彼らの方だ。けどもう俺も手放してやる気なんてさらさら無い。
「俺は……彼女の事がずっと好きだった。再会した今、その思いはもっと大きくなって一人では抱え切れないくらいで、俺は彼女とずっと一緒にいたい。そう思っています 」
「適当なことを言うな!貴様とうさぎはまだ出会ったばかりだろう?! 」
「ひーちゃん!まもちゃんは幼馴染なの!! 」
「「え? 」」
うさの叫びに兄弟の声が重なる。そして俺たちの子供時代の事を話すうさに彼等の表情は曇っていった。
「卑怯だぞ地場衛!許さん!俺達よりも先にうさぎと出会って天使のような愛らしい幼少期を独り占めしていたなどと! 」
「いや、許さんと言われても…… 」
「兄さん、これ以上は見苦しいよ、もうやめよう 」
顔を赤くして怒り叫ぶ黒月に弟は額に手を当てて溜息をつく。そして兄の両肩を掴んでべりっとうさから引き離した。
「兄さんには僕がいるじゃないか 」
「は、離せ蒼影!その可愛らしい笑顔をやめないかっ! 」
可愛いと言われて気を良くしたのか背後からそのまま腕を回して抱き着く弟に戸惑う兄。俺は一体何を見せられているんだろうか。
「それに烏丸先輩も紅蓮も兄さんの事スキだよ 」
「わ、私もひーちゃんのこと大好きだよ! 」
「うさぎ……!! 」
「馬鹿女は黙ってろ 」
無機質な瞳をうさに向けて言う弟をものともしない彼女は続けた。
「ひーちゃんとあーちゃんも大事な幼馴染だもん。嫌いになんてならないよ。でもね、まもちゃんは私がこの先もずっと一緒にいたい大切な男の人なんだ。今は無理でも、いつか……いつか二人にも見守って貰えたら嬉しいなって思ってる 」
目に涙を溜めて二人に言葉を一つ一つ届ける彼女の腰を支える。
「ごめんね、光輝さん 」
うさがそう黒月を呼ぶと、彼は目を開いてぐっと唇を噛み締め視線を外した。
「彼女の事、俺が絶対に幸せにします。いえ、二人で幸せになります。だから彼女を俺に下さい 」
「ま、まもちゃん?! 」
頭を下げる俺を驚いて見るうさに改めて自分の言葉に顔から火が出そうだ。しかしケジメだ。他者を遠ざけて生きてきた今までの自分との決別。この世で一番大切な女の子と生きていく覚悟。彼女が大事だという人々は俺にとっても大事な人達なのだから。
やがて頭上から男の笑い声が聞こえる。顔を上げると呆れたように俺を見る黒月がいた。
「俺はうさぎの父親か。そしてお前は結婚の許しを貰いにきた娘の彼氏か 」
「あ、いや違う!俺はただ「俺は許さん 」
言われてみればそうとしか思えない自身の言葉に慌てるが(だからうさもこんなに真っ赤なのか)それに被せるように黒月は言い放った。
「世界中の人間がお前達を許しても俺だけは許さない 」
「ひーちゃん…… 」
黒月は背を向けて自分の家のアプローチに続く門扉に手を掛ける。
「だからもう、勝手にするがいい 」
そう言い残すと門扉を開けて振り返らずに家に入っていった。弟は俺たちに向き直ると相変わらず読み取れない表情のまま口を開く。
「兄さんには僕がいるから、この先もうさぎが出る幕はないよ。せいぜいその男と馬鹿みたいに騒いでいろ 」
「ごめんなさい蒼影センパイ! 」
「それやめろ。いつもみたいに勝手に呼べ 」
ムッとした顔で目を逸らしてそう言う彼にあーちゃん!とすぐに呼び直すうさ。
「あーちゃん!ありがとう! 」
ふんと愛想なく答えるが、一瞬だけうさのことを笑って見つめ、すぐに目を伏せた。
うさが手を振って彼を見送ると背中を向けつつぷらぷらと適当に右手を振り家に入っていった。
彼らの姿が見えなくなると足の力が抜けてその場にしゃがみ込む。
「まもちゃん?!だいじょうぶ?? 」
「うさちゃんてさ、みんなに愛されてるんだな 」
「え?何? 」
俺の囁きは彼女には届かなかったらしく、何でもないよと返して手を取ると唇を寄せた。
「好きだよ。うさちゃん 」
うさちゃんは彼等に本当に大事に思われていた。でも俺も負けないから。俺の君を好きだというこの気持ちは、誰にも負けない。だからずっと、俺の隣で笑ってて?
突然の言葉に彼女は真っ赤になって慌てふためいていたけれど、わ、私も好き!!と手をぎゅっと握り返され抱き着かれ、バランスを崩して二人で地面に転がった。
まるで幼かった日のあの頃の様に笑い合う。
「あらあらあら、衛くんじゃないの。相変わらず二人は仲良しさんなのねえ♡ 」
そんな時、いつの間にか買い物かごを提げているうさの母親が横に立っていて赤面する。
「マ、ママ!? 」
「お、お久しぶりです 」
つづく
「ひーちゃん、あーちゃん! 」
「うさぎ 」
生徒会長の銀髪の男は俺の事をあからさまに嫌いだというオーラを出しつつ睨んでいたし、後ろの青い男は闇を纏って空っぽな目でこちらを見ていた。
「貴様には言いたい事がごまんとある。だがあえて聞いてやろう。俺たちの大事な幼馴染のことを一体どう思っている。返答によってはただじゃおかない 」
黒月会長がうさの肩をぐいっと引き寄せて刺すような視線で言ってくる。そうだよな、俺とは比べ物にならないほど長い時間一緒にいたのは彼らの方だ。けどもう俺も手放してやる気なんてさらさら無い。
「俺は……彼女の事がずっと好きだった。再会した今、その思いはもっと大きくなって一人では抱え切れないくらいで、俺は彼女とずっと一緒にいたい。そう思っています 」
「適当なことを言うな!貴様とうさぎはまだ出会ったばかりだろう?! 」
「ひーちゃん!まもちゃんは幼馴染なの!! 」
「「え? 」」
うさの叫びに兄弟の声が重なる。そして俺たちの子供時代の事を話すうさに彼等の表情は曇っていった。
「卑怯だぞ地場衛!許さん!俺達よりも先にうさぎと出会って天使のような愛らしい幼少期を独り占めしていたなどと! 」
「いや、許さんと言われても…… 」
「兄さん、これ以上は見苦しいよ、もうやめよう 」
顔を赤くして怒り叫ぶ黒月に弟は額に手を当てて溜息をつく。そして兄の両肩を掴んでべりっとうさから引き離した。
「兄さんには僕がいるじゃないか 」
「は、離せ蒼影!その可愛らしい笑顔をやめないかっ! 」
可愛いと言われて気を良くしたのか背後からそのまま腕を回して抱き着く弟に戸惑う兄。俺は一体何を見せられているんだろうか。
「それに烏丸先輩も紅蓮も兄さんの事スキだよ 」
「わ、私もひーちゃんのこと大好きだよ! 」
「うさぎ……!! 」
「馬鹿女は黙ってろ 」
無機質な瞳をうさに向けて言う弟をものともしない彼女は続けた。
「ひーちゃんとあーちゃんも大事な幼馴染だもん。嫌いになんてならないよ。でもね、まもちゃんは私がこの先もずっと一緒にいたい大切な男の人なんだ。今は無理でも、いつか……いつか二人にも見守って貰えたら嬉しいなって思ってる 」
目に涙を溜めて二人に言葉を一つ一つ届ける彼女の腰を支える。
「ごめんね、光輝さん 」
うさがそう黒月を呼ぶと、彼は目を開いてぐっと唇を噛み締め視線を外した。
「彼女の事、俺が絶対に幸せにします。いえ、二人で幸せになります。だから彼女を俺に下さい 」
「ま、まもちゃん?! 」
頭を下げる俺を驚いて見るうさに改めて自分の言葉に顔から火が出そうだ。しかしケジメだ。他者を遠ざけて生きてきた今までの自分との決別。この世で一番大切な女の子と生きていく覚悟。彼女が大事だという人々は俺にとっても大事な人達なのだから。
やがて頭上から男の笑い声が聞こえる。顔を上げると呆れたように俺を見る黒月がいた。
「俺はうさぎの父親か。そしてお前は結婚の許しを貰いにきた娘の彼氏か 」
「あ、いや違う!俺はただ「俺は許さん 」
言われてみればそうとしか思えない自身の言葉に慌てるが(だからうさもこんなに真っ赤なのか)それに被せるように黒月は言い放った。
「世界中の人間がお前達を許しても俺だけは許さない 」
「ひーちゃん…… 」
黒月は背を向けて自分の家のアプローチに続く門扉に手を掛ける。
「だからもう、勝手にするがいい 」
そう言い残すと門扉を開けて振り返らずに家に入っていった。弟は俺たちに向き直ると相変わらず読み取れない表情のまま口を開く。
「兄さんには僕がいるから、この先もうさぎが出る幕はないよ。せいぜいその男と馬鹿みたいに騒いでいろ 」
「ごめんなさい蒼影センパイ! 」
「それやめろ。いつもみたいに勝手に呼べ 」
ムッとした顔で目を逸らしてそう言う彼にあーちゃん!とすぐに呼び直すうさ。
「あーちゃん!ありがとう! 」
ふんと愛想なく答えるが、一瞬だけうさのことを笑って見つめ、すぐに目を伏せた。
うさが手を振って彼を見送ると背中を向けつつぷらぷらと適当に右手を振り家に入っていった。
彼らの姿が見えなくなると足の力が抜けてその場にしゃがみ込む。
「まもちゃん?!だいじょうぶ?? 」
「うさちゃんてさ、みんなに愛されてるんだな 」
「え?何? 」
俺の囁きは彼女には届かなかったらしく、何でもないよと返して手を取ると唇を寄せた。
「好きだよ。うさちゃん 」
うさちゃんは彼等に本当に大事に思われていた。でも俺も負けないから。俺の君を好きだというこの気持ちは、誰にも負けない。だからずっと、俺の隣で笑ってて?
突然の言葉に彼女は真っ赤になって慌てふためいていたけれど、わ、私も好き!!と手をぎゅっと握り返され抱き着かれ、バランスを崩して二人で地面に転がった。
まるで幼かった日のあの頃の様に笑い合う。
「あらあらあら、衛くんじゃないの。相変わらず二人は仲良しさんなのねえ♡ 」
そんな時、いつの間にか買い物かごを提げているうさの母親が横に立っていて赤面する。
「マ、ママ!? 」
「お、お久しぶりです 」
つづく