第七話 『心が向かう場所』

「お前、どうしてここに?」
泣きそうな顔をして俺の下へと走ってきた彼女に声を絞り出して聞いた。情けないけれど、気を抜くと震えそうで。
「まもちゃん、私思い出したよ。全部。」
あの呼び方をしただけでは図書室の件もあって分からなかったけれどその言葉で確信に変わる。
「そっか。幻滅しただろ?俺みたいな奴が幼馴染で。」
「バカ!そんなわけないでしょ!!」
腕をぎゅっと掴まれて真っ直ぐな視線と言葉をぶつけられてはっとなる。
「うさ「優しかったもん!!」
「え?」
呼ぼうとしたら突然の宣言に瞠目する。
「言葉は嫌味ばっかりなのに自転車だって乗せてくれたし、べんきょーだって見てくれたし、それにその目も!」
「目?」
「写真の中のちっちゃな頃のあなたと同じ。綺麗で優しい色で私の事見ててくれた!」
言われて顔に熱が集まるのを自覚する。
なんなんだよ、こいつは本当にびっくりするくらい恥ずかしい事を平気で言う。
なのにそれが堪らなく嬉しくて。

「バカだなお前。何でそんなに可愛いの?」

目の前の少女を力一杯抱き締めていた。
 
バカじゃないもん!と言いながらうさぎは俺の胸でわんわん泣き始める。

「ごめんね、まもちゃんごめんねぇ忘れててっあんなに大好きだったのにっ....やっぱり私バカかもしれない〜〜っ」
「謝らなくていーよ。思い出してくれたんだろ?充分だよ。」
「うぅ、もうっ急に優しくなるの卑怯だよぉ真っ黒王子〜!!」
「何だよそれ。俺こそ急にあんな事してごめん。」
泣いている頬を拭ってやりそう言うとキョトンと首を傾げる。くそ、可愛いな。
「あんな事?」
「キスした事、だよ。」
照れもありぶっきら棒に答えると、首まで真っ赤になった後青ざめるうさぎに戸惑う。
「何で謝るの?後悔してるって事?私があまりにもハクジョーだったから....
「そんな訳あるか!確認もせずにああいう事したからうさぎが嫌だったんじゃないかって意味だ!」
見つめると少しの沈黙の後無意識なのか唇を触りながら伏し目がちにぽつりぽつりと喋り始めた。
「い、嫌じゃなかった。ビックリはもちろんしたけど。それにさっきも言ったでしょ。大好きって。」
「うさ....。」
うさちゃんと呼ぶには流石に気恥ずかしくてそう言うと、嬉しそうににっこりと笑った。

『やっぱりうさちゃんは笑顔が一番だね』

幼い頃の自分が心の中で満足げに言っているのようで、自然と頬が緩む。

そうして今度はさっきよりも長く、その唇に想いを載せてキスをした。

「ねえ、このキスの意味....教えて?まもちゃん。」
はぐらかそうとすると、ちゃんと言ってくれないと分からないと食い下がる彼女。ぷうっと膨れた頬と上目遣いが可愛くて観念して囁いた。

『うさのことがずっと好きだった。これからも、ずっと好きだよって....意味だよ。』



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