第六話 『呼ぶ声』

「あら?おはよう。あなた早いのね。その制服の色は…中等部の生徒さんかしら。」

声がして急いで涙を拭った。

「は、はいっおはようございます!」

とっても美人なセンパイが引き戸を開けて驚いて私を見てる。

「目が真っ赤よ?大丈夫?もしかしてその本が原因かしら。」

「いやっあの、この本、借りてもいいでしょうか?」

「あらそうなの、ごめんなさい。ネタばらししてしまうところだったわ。ちょっと待っていてくださる?」

ふわりと花のような香りがその人が横切るときにしてどきっとする。

私とは全然違う、大人の女の人だ....緑のリボンだから地場センパイと同じ学年だよね。

並んだ二人のことを想像して、自分でも分かるくらいの嫌な気持ちになってしまい振り払う。

どうしちゃったのよ、うさぎ。こんなの、私らしくない。

慣れた感じでカウンターの中で作業をするその人は図書委員のようだった。

気付いたときにはもう貸し出しカードにもしっかりと自分で名前を書いて本を借りる作業を一通り終えてしまっていた。

「月野うさぎさん。可愛らしいお名前ね。」

「あ、ありがとうごさいます。よかったらセンパイのお名前を聞いても?」

「私は海王みちる。高等部の2年よ。よろしくね、月野さん。」

ふふっと上品に笑ったセンパイはそう自己紹介してくれた。

海王みちる?どこかで聞いたような....

「あ!美奈子ちゃんが言ってた天王はるかセンパイのっ」

ほっとして手をぽんと叩いて言えばみちるセンパイも驚きつつちょっと嬉しそうに笑った。その笑顔にどきりとする。
これはニブチンの私にだって分かる。

恋してる顔だ。

「はるかをご存知?」

「あ、あの、ご存知ではございませぬがお噂はかねがねでーございましてっ!」

どぎまぎして変な日本語ばかりが飛び出す。さっきから私の心の中はジェットコースターみたいに忙しい。

「ふふ、面白い子ね。また遊びにいらして?あなたとは今度ゆっくりお話したいわ。」

「ありがとうございます!えっと、センパイのクラスは何組でございましょうか??」

「A組よ。」

地場センパイと同じだ!

「じゃ、じゃあ今度友達も一緒に遊びに行きます!」

「楽しみにしていてよ?」

「はい!」

ちょっとイタズラっぽく笑うみちるセンパイにぺこりとお辞儀をすると借りたての本を抱えて図書室を出た。


ドキドキが止まらない。


とにかくこの本を早く読みたかった。
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