第五話 『約束』

『まもちゃん!!』

本当に驚いたんだ。そう呼ばれて目覚めた時に見えた顔は、思い出せば思い出すほどやっぱり幼い頃の記憶に残っている女の子、『うさちゃん』の面差しを映していたから。彼女もそれを思い出して呼んだのかと思い、もう何年も感じたことのない心の震えを拾い上げて一気に頭がクリアになったのだが…どうやらそれは俺の都合のいい勘違いだったらしい。

憶えていないのも無理はない。俺だって初めは気付かなかったんだ。あの頃はこの女は三歳くらいだったはずだし。

けれど俺はお前を知っている。

つきの うさぎ

泣き虫で、甘えん坊で、いつも俺の後ろにくっついてた近所に住む女の子。

俺が五歳くらいの時から妙になついてきて、兄弟がいなかった俺はその子が単純に可愛くて――――




『ままちゃ!』

『え?』

母親に連れられて歩いていたうさぎはまだ二歳くらいだった。そんな小さな女の子が家の庭先で遊んでいる俺を見つけると嬉しそうに指差してそう言った。

『あらこんにちは衛くん。うさぎ、きっとあなたのこと呼んでるのよ。まもちゃんって。ちょっと言葉がゆっくりさんだからまだうまく呼べてないけど、ね?うさぎ?』

『うん!』

そう言うとうさぎは俺のところまで駆け寄ってきてきゅっと腕を掴んでとびっきりの笑顔を見せて俺を呼ぶ。

『ままちゃ!まーまちゃ!』

『うさぎ、ちゃん…うさちゃん!』

『うさちゃ?うさちゃー!』

呼ばれたことが嬉しくて俺もうさぎのことをそう呼ぶと、何倍も嬉しそうな顔をして俺の両手を取ってぶんぶん振って可愛い声で笑った。

その小さな手を今でもよく憶えている。

ちいさくてあったかくて柔らかくて…心の中がぽかぽかする手だった。


その日から、俺達はよく一緒にいるようになった。
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