第四話 『ブラック生徒会』
うさぎは俺よりも地場という輩に気持ちを向けている。そんな事実を叩きつけられ、気持ちのやり場がなくなった俺は、ホワイトボードに風穴を開け、更には会議用テーブルを一台、パイプ椅子を四脚破壊してしまった頃にはどうにか理性が戻ってくる。
右に向き直せば翠子は石化したように固まっていた。
そういえば紅蓮はどこに消えた?まあいい。
「烏丸先輩、今日はもう帰ってくれ。あとの事は僕がやっておくから。」
蒼影の言葉にこくこく無言で首を縦に振る翠子は二秒もしないうちに部屋から出ていった。
破壊した備品を無表情で処理していく弟の姿をぼんやりと俺は見つめる。
「すまん。」
「謝らなくていい。兄さんがあの女の事を長い間思っていたのは知ってるつもりだ。」
「蒼影....」
表情は冷たいが弟はいつだって俺の味方だった。幼いころから。
破壊していないところに腰掛け机に肘を付きうなだれる。
…うさぎのことを誰よりも近くで誰よりも理解して誰よりも愛しているつもりだった。
幼い頃から変わり者と揶揄されていた俺は、片田舎からこの都会に引越すことが決まってもさして興味もなく、どうせ新しい地に来ても周りの連中とは馴染めずに、忙しくほとんど家にいない両親は金以外は何も助けてなどくれず、味方は弟だけで、世界は限りなく狭く、小さいものだろうと完全に諦めていた。
しかしあの日、確かに世界は変わったのだ。
『こんにちは!おとなりにおひっこししてきた子たちだよね!?』
まるで花の妖精のように愛らしく笑う少女に出会った。
うさぎはあの時から、俺の心の女神となった。
隣にいた蒼影もそんなうさぎの事を食い入るように見ていたように思う。
うさぎ、俺だけのミューズ....
「兄さん。」
目覚めると相も変わらず無表情な弟の顔が映った。生徒会室はもう黄昏色に染まっている。
「ああ、すまない。寝てしまっていたのか…」
「別に構わないよ。残りの作業は僕が終わらせておいたから。」
隅に目をやると『廃棄』と張り紙を付けられホワイトボードなどがまとめて置かれていて気が重くなる。
最低な兄だな、俺は。
俺の分まで帰り支度を終えている弟は鞄を差し出してきた。それを受け取っても動かないこちらへ向けられる視線を感じながらもそれが沈黙だったからか独り言のように言葉が漏れた。
「うさぎにあんな顔をさせたいわけじゃなかった。」
想いを告げた後の、戸惑った表情、そして辛く、悲しげな表情。なぜあんな顔をさせねばならなかった…?
「…。」
「俺がこんなにもうさぎのことを想っているのだと知れば、あんな表情をするはずもないのに。まだ想いが足りないとでもいうのだろうか。」
「兄さん。」
「なんだ。」
そこでようやく横にいる弟のほうへ体を向けた。すると眉をひそめてどこか影が落ちた瞳で俺を見る弟の姿があり、僅かに動揺する。
「あの女は…うさぎは、兄さんが思っているような女じゃないよ。」
「どういうことだ。」
「うさぎは、兄さんの女神でも、プリンセスでも、聖母でもないんだ。」
ひとつひとつを噛み締めるように伝えてくる弟に愕然とする。そんなこと、ただの一度も言ってきたことなどなかったではないか。
「蒼影…っ」
「ただの女だ。」
「蒼影!」
「平凡で、うるさくて、泣き虫で、頭も良くなくて。けど、自分の意思を持っている。誰にでも笑顔を見せるけど、自分の気持ちを預ける相手は自分で決める。うさぎはそんな、普通の女なんだよ。」
窓の向こうの空を物憂げに見る弟に一つの答えが浮かび上がる。
「蒼影…お前、まさか…」
「僕はあんな女は好きじゃない。誰にでも平等に愛情を向けるような…結局、自分のものにならない女なんて、僕が好きになるものか。」
畳み掛けるように続く弟の言葉。
しかし俺は何も返せなくなった。
信じ難かったのだ。
弟のその声は、その表情は、言葉に反してうさぎを――――
右に向き直せば翠子は石化したように固まっていた。
そういえば紅蓮はどこに消えた?まあいい。
「烏丸先輩、今日はもう帰ってくれ。あとの事は僕がやっておくから。」
蒼影の言葉にこくこく無言で首を縦に振る翠子は二秒もしないうちに部屋から出ていった。
破壊した備品を無表情で処理していく弟の姿をぼんやりと俺は見つめる。
「すまん。」
「謝らなくていい。兄さんがあの女の事を長い間思っていたのは知ってるつもりだ。」
「蒼影....」
表情は冷たいが弟はいつだって俺の味方だった。幼いころから。
破壊していないところに腰掛け机に肘を付きうなだれる。
…うさぎのことを誰よりも近くで誰よりも理解して誰よりも愛しているつもりだった。
幼い頃から変わり者と揶揄されていた俺は、片田舎からこの都会に引越すことが決まってもさして興味もなく、どうせ新しい地に来ても周りの連中とは馴染めずに、忙しくほとんど家にいない両親は金以外は何も助けてなどくれず、味方は弟だけで、世界は限りなく狭く、小さいものだろうと完全に諦めていた。
しかしあの日、確かに世界は変わったのだ。
『こんにちは!おとなりにおひっこししてきた子たちだよね!?』
まるで花の妖精のように愛らしく笑う少女に出会った。
うさぎはあの時から、俺の心の女神となった。
隣にいた蒼影もそんなうさぎの事を食い入るように見ていたように思う。
うさぎ、俺だけのミューズ....
「兄さん。」
目覚めると相も変わらず無表情な弟の顔が映った。生徒会室はもう黄昏色に染まっている。
「ああ、すまない。寝てしまっていたのか…」
「別に構わないよ。残りの作業は僕が終わらせておいたから。」
隅に目をやると『廃棄』と張り紙を付けられホワイトボードなどがまとめて置かれていて気が重くなる。
最低な兄だな、俺は。
俺の分まで帰り支度を終えている弟は鞄を差し出してきた。それを受け取っても動かないこちらへ向けられる視線を感じながらもそれが沈黙だったからか独り言のように言葉が漏れた。
「うさぎにあんな顔をさせたいわけじゃなかった。」
想いを告げた後の、戸惑った表情、そして辛く、悲しげな表情。なぜあんな顔をさせねばならなかった…?
「…。」
「俺がこんなにもうさぎのことを想っているのだと知れば、あんな表情をするはずもないのに。まだ想いが足りないとでもいうのだろうか。」
「兄さん。」
「なんだ。」
そこでようやく横にいる弟のほうへ体を向けた。すると眉をひそめてどこか影が落ちた瞳で俺を見る弟の姿があり、僅かに動揺する。
「あの女は…うさぎは、兄さんが思っているような女じゃないよ。」
「どういうことだ。」
「うさぎは、兄さんの女神でも、プリンセスでも、聖母でもないんだ。」
ひとつひとつを噛み締めるように伝えてくる弟に愕然とする。そんなこと、ただの一度も言ってきたことなどなかったではないか。
「蒼影…っ」
「ただの女だ。」
「蒼影!」
「平凡で、うるさくて、泣き虫で、頭も良くなくて。けど、自分の意思を持っている。誰にでも笑顔を見せるけど、自分の気持ちを預ける相手は自分で決める。うさぎはそんな、普通の女なんだよ。」
窓の向こうの空を物憂げに見る弟に一つの答えが浮かび上がる。
「蒼影…お前、まさか…」
「僕はあんな女は好きじゃない。誰にでも平等に愛情を向けるような…結局、自分のものにならない女なんて、僕が好きになるものか。」
畳み掛けるように続く弟の言葉。
しかし俺は何も返せなくなった。
信じ難かったのだ。
弟のその声は、その表情は、言葉に反してうさぎを――――