第二話 『背中』
らしくないな、俺。
昨日出会ったばかりのお団子頭に対する自分の言葉や行動を思い出して靴箱を音を立てて閉める。
『綺麗…』
昨日の図書室。いつもの定位置の近くまで来て、その向かいの席で眠る彼女を最初に見た時は別段気にも留めなかった。しかし起きたと思ったら大あくびをして。俺の事を見てると思ったら急にそんなことを言ってにこにこ笑う。
その素直で無邪気な笑顔は俺の中にストンと落ちてきた。
誰かにそんな事を正面切って穏やかに微笑まれながら言われた事がもうずっと無かったから反応も鈍くなる。けれどその表情は勝手に俺の心の奥底を引っ張り上げる何かがあって、振り切るように変な奴と言って終わらせようと思ったのに。
そこからの会話は初めて会ったばかりだと言うのにやたらと噛み付いてくる彼女に、いつもは他人に無関心を決め込んでいたはずの俺もなぜだか切り返してしまって。喜怒哀楽の激しいその様子につい同調してしまったように思う。こんなこと、本当に何年振りなのだろう。
さっきだって通り過ぎれば良かったのにわざわざ止まって自転車に乗せたりしてしまった。
全くどうかしている。昨日は自分で突き放すような事を言ったくせに、またあの笑顔が見たいと思ってしまっただなんて。
実際は見られなかったのだけれど。
「おいお前。」
「…?何か?」
お団子頭の彼女の笑った顔、怒った顔がよぎる中、廊下で不意に呼びかけられて足を止めた。
「何故お前がうさぎと一緒に登校してきたんだ。」
「は?」
突然見知らぬ男にそんな質問をされて眉間に皺が寄る。答える気も無くそのまま教室ではなく図書室へ向かおうとする。
「お前、俺のことをまさか知らんとでも言うまいな。」
「…」
無視を決め込んで男に背を向けたまま遠ざかりたかったがそうはさせてくれなかった。
「待てっ!まさか本当に生徒会長である俺のことを知らんと言うのか貴様は!!」
「…興味無いんで。」
肩を掴んでくる手を振りほどいて冷ややかな目線を送ると、男は目に見えて苛立ち怒りをぶつけてきた。
「今!中等部2年A組の月野うさぎと一緒に登校してきただろう。教室から見えた!あれは俺の大事な女だ。貴様のような礼儀も知らん男には渡さん!!」
今度は胸倉を掴んでくる男に目を見開いた。
「つきの…うさぎ…?」
驚いたのは男の行動にではなく、その話の内容に。
「会長っおま、何してやがる!」
廊下にいた生徒はおろか、教室内にいた者まで生徒会長の大声に何事かと視線を集めていたのだが。その騒ぎを聞きつけてやって来たのは赤髪の腕っ節の強そうな男だった。その後ろには無表情ながらも物凄い速さで走ってくる青い髪をした男の姿もあった。
その様子に一瞬力が緩んだのを見逃さなかった俺は手を掴んで振り解き乱れたネクタイを結び直す。
「てめえ、会長に何をした。ああっ!?」
正に炎のように熱いオーラを纏わせて言う赤髪男に氷のようにさっと冷たく見つめ返す。
「…別に。そっちが勝手に一人で怒り出してきただけだけど。」
「貴様…っ!!」
そんな俺の様子に再び頭に血が上る生徒会長は踏み出そうとするが、兄さんと彼を呼ぶ青髪によって阻まれた。
「よすんだ。こんな男を殴りでもしたら、兄さんの名に傷が付く。」
「貴様!学年クラス名前を言えっ」
紅蓮 と会長に呼ばれた男に指差し叫ばれる。ここで黙っておくと事態が面倒なことになりそうなので答えておく。
「2年A組…地場衛。」
「俺は銀河学園生徒会会長、3年C組黒月光輝だー!!!」
こちらから聞いてもいないのに自己紹介する生徒会長だったが、俺の足は今度こそ図書室へと向かった。
「地場衛…!!俺は貴様を絶対に許さんっ!!!」
そう叫ぶ生徒会長は、ブラックリスト上位に入れてやる!というようなことを、去る俺に続けて投げつけている。
けれど俺の頭の中はさっき落とされた不意の爆弾によって混乱していて、殆ど音として通り過ぎていくだけだった。
「つきの…うさぎ…」
まもちゃーん!
記憶に残る笑顔。可愛い声。
大切な、女の子。
昨日出会ったばかりのお団子頭に対する自分の言葉や行動を思い出して靴箱を音を立てて閉める。
『綺麗…』
昨日の図書室。いつもの定位置の近くまで来て、その向かいの席で眠る彼女を最初に見た時は別段気にも留めなかった。しかし起きたと思ったら大あくびをして。俺の事を見てると思ったら急にそんなことを言ってにこにこ笑う。
その素直で無邪気な笑顔は俺の中にストンと落ちてきた。
誰かにそんな事を正面切って穏やかに微笑まれながら言われた事がもうずっと無かったから反応も鈍くなる。けれどその表情は勝手に俺の心の奥底を引っ張り上げる何かがあって、振り切るように変な奴と言って終わらせようと思ったのに。
そこからの会話は初めて会ったばかりだと言うのにやたらと噛み付いてくる彼女に、いつもは他人に無関心を決め込んでいたはずの俺もなぜだか切り返してしまって。喜怒哀楽の激しいその様子につい同調してしまったように思う。こんなこと、本当に何年振りなのだろう。
さっきだって通り過ぎれば良かったのにわざわざ止まって自転車に乗せたりしてしまった。
全くどうかしている。昨日は自分で突き放すような事を言ったくせに、またあの笑顔が見たいと思ってしまっただなんて。
実際は見られなかったのだけれど。
「おいお前。」
「…?何か?」
お団子頭の彼女の笑った顔、怒った顔がよぎる中、廊下で不意に呼びかけられて足を止めた。
「何故お前がうさぎと一緒に登校してきたんだ。」
「は?」
突然見知らぬ男にそんな質問をされて眉間に皺が寄る。答える気も無くそのまま教室ではなく図書室へ向かおうとする。
「お前、俺のことをまさか知らんとでも言うまいな。」
「…」
無視を決め込んで男に背を向けたまま遠ざかりたかったがそうはさせてくれなかった。
「待てっ!まさか本当に生徒会長である俺のことを知らんと言うのか貴様は!!」
「…興味無いんで。」
肩を掴んでくる手を振りほどいて冷ややかな目線を送ると、男は目に見えて苛立ち怒りをぶつけてきた。
「今!中等部2年A組の月野うさぎと一緒に登校してきただろう。教室から見えた!あれは俺の大事な女だ。貴様のような礼儀も知らん男には渡さん!!」
今度は胸倉を掴んでくる男に目を見開いた。
「つきの…うさぎ…?」
驚いたのは男の行動にではなく、その話の内容に。
「会長っおま、何してやがる!」
廊下にいた生徒はおろか、教室内にいた者まで生徒会長の大声に何事かと視線を集めていたのだが。その騒ぎを聞きつけてやって来たのは赤髪の腕っ節の強そうな男だった。その後ろには無表情ながらも物凄い速さで走ってくる青い髪をした男の姿もあった。
その様子に一瞬力が緩んだのを見逃さなかった俺は手を掴んで振り解き乱れたネクタイを結び直す。
「てめえ、会長に何をした。ああっ!?」
正に炎のように熱いオーラを纏わせて言う赤髪男に氷のようにさっと冷たく見つめ返す。
「…別に。そっちが勝手に一人で怒り出してきただけだけど。」
「貴様…っ!!」
そんな俺の様子に再び頭に血が上る生徒会長は踏み出そうとするが、兄さんと彼を呼ぶ青髪によって阻まれた。
「よすんだ。こんな男を殴りでもしたら、兄さんの名に傷が付く。」
「貴様!学年クラス名前を言えっ」
「2年A組…地場衛。」
「俺は銀河学園生徒会会長、3年C組黒月光輝だー!!!」
こちらから聞いてもいないのに自己紹介する生徒会長だったが、俺の足は今度こそ図書室へと向かった。
「地場衛…!!俺は貴様を絶対に許さんっ!!!」
そう叫ぶ生徒会長は、ブラックリスト上位に入れてやる!というようなことを、去る俺に続けて投げつけている。
けれど俺の頭の中はさっき落とされた不意の爆弾によって混乱していて、殆ど音として通り過ぎていくだけだった。
「つきの…うさぎ…」
まもちゃーん!
記憶に残る笑顔。可愛い声。
大切な、女の子。