いい夫婦の日・椿(キンクイ)

「うさ!」

「まもちゃん!丁度よかったわ。」

庭園は寒椿が花開くころで、赤や薄紅色、白。肌寒い空の下も力強く咲き乱れていた。

クイーン以外誰もおらず、キングは二人きりの時だけの呼び名で妻を振り向かせる。

庭園の中心で笑う彼女は月の光のように柔らかな輝きに満ちていて寒椿とのコントラストはまるで絵画のようにキングには映った。

「梅雨の頃、ジュピターを手伝って私も一緒に植えたのよ。ね!綺麗に咲いたでしょう?」

傍らに歩み寄った夫を見上げて得意げに語る。そんな姿はとても愛らしく、幾つもの時を経ても変わらぬ思いにキングは胸を鳴らした。
彼は彼女に恋をする。何度でも。

「知らなかった。そうだったのか。本当に見事に咲いたな。」

ふふっと笑ってキングの腕に手を絡ませてとんと頭を預けた。

「良かったわ。無事に咲いてくれて。」

「ああ。ありがとう、うさ。」

どういたしまして。と笑うクイーンは、ジュピターにもちゃんとお礼言ってね?私はお手伝いしただけなのよ。と念を押した。

もちろんと頷く夫に目元を緩めて隠していた片方の手を差し出した。

「旦那様にプレゼント。」

そこには赤の寒椿が一輪。

「花言葉がね、あなたにぴったりだと思ったの。」

花のように可憐に笑む妻からそれを受け取りうっすらと頬を染めるキングは公では決して見られない表情だった。博識な彼はその花言葉も知っていたから。

「じゃあうさにはこっちだな。」

礼を言った後照れた表情を隠すように彼女が用意していたガーデニング用のはさみで、彼女に断ってから一輪切り取って渡した。

「白い寒椿?」

「そうだよ。俺の奥さんへ。」

みるみる赤くなる妻の頬にキスを一つ。

そして涙目でありがとうと笑うその姿をマントで包み込み、そのまま奪うような口づけを贈った。



マーズが火を噴くように招集をかけるまであと少し。





おわり

※花言葉

寒椿(紅色) 控えめなすばらしさ、慎み深い、気取らない優美さ、謙虚な美徳、高潔な理性

寒椿(白) 最高の愛らしさ、申し分ない魅力、至上の美
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