甘い甘いまもうさ
幕間
大好きな人にたくさん愛された後。
深夜。寝ながらも離すまいときつく抱き締める彼の腕の中で目が覚める。
さっきまでの行為の余韻はもう無くて、ただ穏やかな呼吸を繰り返す彼は安心しきって眠っている。
私は少しだけ身じろいでそんな彼の顔に手を伸ばす。顎、頬、鼻、眉、唇。一つ一つ。大好きな彼を象るそれらに触れていく。
「私の……好きな、人。」
思わず零れた小さな声は酷く甘く自分の鼓膜に響いて恥ずかしくなる。
少し緩んだ彼の腕が再びきつく絡まって私を閉じ込める。
起きたのかと思ったけれど、やっぱり聞こえてくるのは寝息だけ。
でもその抱擁の力強さに私が彼をどんなに不安にさせたのか、辛い思いをさせたのかが分かって胸が痛む。
―大丈夫。私、いなくならないよ―
頬を撫でる。
激戦は幕を閉じた。ファラオ90は時空の扉の向こうへ無に帰り、銀水晶の力で街は蘇り、はるかさんたちも小さな赤ちゃんと一緒に旅立って行った。
ファラオ90へ銀水晶と聖杯と共に身を投げたことは後悔していない。あの時力が残されていたのは私だけだったから。皆を守れるのならこれしかないと思ったの。
だけど…数時間前。私を抱きながら彼が零したものを見た時。震える声で私を呼んだ時。
置いて行かれる事の恐怖と絶望。そして私への大きな想いを感じて…
涙が溢れた。
「まもちゃん…っ」
ぎゅうっとしがみついてまた泣いてしまった私は大好きな彼の名を呼ぶ。
あの時もしも死んでしまっていたら、こうして彼のことを呼ぶことも抱きしめることもできなくなっていたんだ。
こんなに寂しがり屋で愛しいあなたを独りぼっちにするところだったんだ。
「うさこ…?」
起こしてしまった彼に顔を上げずに抑えられない涙と共に話し始める。
「私…もう絶対まもちゃんの傍から離れない…っもし、もしも次にまた新しい敵が襲ってきても…もう一人で無茶はしないよ。」
私の言葉に身を硬くして息を詰める気配を感じる。
「我儘だって自分でも思うけど、その時はあなたに隣にいて欲しい。お願い…私から、離れないで…っ」
彼の顔を見ると、涙をうっすらと浮かべて微笑んでいた。
「…ありがとう…」
「…え?」
私の両頬を包む彼はまるで心の奥底の本心を初めて吐き出すかのように苦しそうに、切なそうに。でもとても愛おしそうに私を見つめながら言葉を紡いだ。
「俺は、いつだってお前には我儘を言って欲しかったんだ。戦いになればうさこは真っ直ぐに敵に突き進んで行ってしまうから…。俺に力が無いからそれは仕方の無いことなんだって、分かってる。でも。どんな時でも隣にいさせて欲しい。戦うときも、例え…死ぬときでさえも。」
「まもちゃん…」
唇が重なる。そして再び抱き締められて、耳元に溶け込むように彼の低い声が落ちてくる。
「離さない。離すもんか…っ」
ああ
私、今…死んでもいいくらいしあわせ。
だけど…
もう一度私を抱く彼はさっきみたいに何かに追い立てられるかのような激しさはもう無くて。ただひたすらに優しく甘く――私を包んでくれた。
だから死なない。
だって、生きていれば、こうしてもっとしあわせな瞬間を
彼と紡いでいく事ができるのだから。
おわり
大好きな人にたくさん愛された後。
深夜。寝ながらも離すまいときつく抱き締める彼の腕の中で目が覚める。
さっきまでの行為の余韻はもう無くて、ただ穏やかな呼吸を繰り返す彼は安心しきって眠っている。
私は少しだけ身じろいでそんな彼の顔に手を伸ばす。顎、頬、鼻、眉、唇。一つ一つ。大好きな彼を象るそれらに触れていく。
「私の……好きな、人。」
思わず零れた小さな声は酷く甘く自分の鼓膜に響いて恥ずかしくなる。
少し緩んだ彼の腕が再びきつく絡まって私を閉じ込める。
起きたのかと思ったけれど、やっぱり聞こえてくるのは寝息だけ。
でもその抱擁の力強さに私が彼をどんなに不安にさせたのか、辛い思いをさせたのかが分かって胸が痛む。
―大丈夫。私、いなくならないよ―
頬を撫でる。
激戦は幕を閉じた。ファラオ90は時空の扉の向こうへ無に帰り、銀水晶の力で街は蘇り、はるかさんたちも小さな赤ちゃんと一緒に旅立って行った。
ファラオ90へ銀水晶と聖杯と共に身を投げたことは後悔していない。あの時力が残されていたのは私だけだったから。皆を守れるのならこれしかないと思ったの。
だけど…数時間前。私を抱きながら彼が零したものを見た時。震える声で私を呼んだ時。
置いて行かれる事の恐怖と絶望。そして私への大きな想いを感じて…
涙が溢れた。
「まもちゃん…っ」
ぎゅうっとしがみついてまた泣いてしまった私は大好きな彼の名を呼ぶ。
あの時もしも死んでしまっていたら、こうして彼のことを呼ぶことも抱きしめることもできなくなっていたんだ。
こんなに寂しがり屋で愛しいあなたを独りぼっちにするところだったんだ。
「うさこ…?」
起こしてしまった彼に顔を上げずに抑えられない涙と共に話し始める。
「私…もう絶対まもちゃんの傍から離れない…っもし、もしも次にまた新しい敵が襲ってきても…もう一人で無茶はしないよ。」
私の言葉に身を硬くして息を詰める気配を感じる。
「我儘だって自分でも思うけど、その時はあなたに隣にいて欲しい。お願い…私から、離れないで…っ」
彼の顔を見ると、涙をうっすらと浮かべて微笑んでいた。
「…ありがとう…」
「…え?」
私の両頬を包む彼はまるで心の奥底の本心を初めて吐き出すかのように苦しそうに、切なそうに。でもとても愛おしそうに私を見つめながら言葉を紡いだ。
「俺は、いつだってお前には我儘を言って欲しかったんだ。戦いになればうさこは真っ直ぐに敵に突き進んで行ってしまうから…。俺に力が無いからそれは仕方の無いことなんだって、分かってる。でも。どんな時でも隣にいさせて欲しい。戦うときも、例え…死ぬときでさえも。」
「まもちゃん…」
唇が重なる。そして再び抱き締められて、耳元に溶け込むように彼の低い声が落ちてくる。
「離さない。離すもんか…っ」
ああ
私、今…死んでもいいくらいしあわせ。
だけど…
もう一度私を抱く彼はさっきみたいに何かに追い立てられるかのような激しさはもう無くて。ただひたすらに優しく甘く――私を包んでくれた。
だから死なない。
だって、生きていれば、こうしてもっとしあわせな瞬間を
彼と紡いでいく事ができるのだから。
おわり