君だけが僕の…(まもうさ)


うっかりしていた。俺、いつから寝てた?

リビングのソファーで座った状態で目覚めた俺は、読んでいたはずの本がテーブルに置かれていて肩から毛布が掛けられていたのだが。

「うさ?」

肝心の恋人の姿がどこにも見当たらない。

日が落ちていて電気も付いていない部屋は当たり前だがとても暗い。

まだ眠りから覚めたばかりで頭が混濁しているからか。途端に失われた時間の記憶に囚われた、孤独であったころの自分が感覚全てを支配していく。夢と現実の境が見えなくなっていく。

夢…?

全部夢だったのか?

俺はやはり独りで

両親も、仲間も、うさなんていう恋人もいなくて。

やはり俺は今も。この暗闇の中で独りで―――――?


「…っっ」


胸が苦しい。吐き気にも似た言いようもない苦しさ。喉がからからに乾いて頭の中にきんとした痛みが伴って。

息が上手く出来なくなる。

「…っさ」

嫌だ、

「う…さ…っ」

助けて…

「うさこ…!!」

ぼくをひとりにしないで――――!!!


「まもちゃん?」


電気がパッと点けられて、その声にバラバラに千切れていきそうだった心と体が戻ってくる。

そして、暗闇では一つも動かなかった手や足が急に自由になり、その方へと向かった。

何も言わず、顔も見れず。ただすがるように抱き付く。


「まもちゃんごめんね。私も眠くなっちゃってベッド借りてたの。」

「…ん」

「どうしたの?怖い夢、見ちゃった?」

「違う。起きたら…誰もいなくて、真っ暗で。だから、夢じゃないんだ…誰もいなかった…あの頃の俺の現実。またあそこに戻ってしまったのかと思った。」

「…まもちゃん…」

「うさ…」

「うん?」

背中をそっと撫で続けてくれる彼女を漸く正面から見る。すると、俺が余程闇を引き摺ったままの表情をしていたからか、うさはくしゃっと顔を歪ませて俺の両頬を包んだ。

そして踵を上げると唇が押し当てられ、角度を変えながら、啄まれて、しっとりと包まれる。
彼女からのキスにしては長めなそれは、泣きたくなるほど、温かくて…


うさじゃなきゃ


うさがいなければ、俺は駄目なのだとその温もりの中で切に思った。

「ごめんね。まもちゃん。」

「もう、大丈夫だよ。俺こそごめんな。情けないとこ見せちまって。」

俺の代わりにポロポロ涙を流す彼女の頬を拭うと、首を横に振って再びさっきよりも強く抱き締めてくる。


「大好き…っ。ずっと…大好きよ?まもちゃん。」

「俺も。一生、うさだけだ。」

キス。今度は俺から。

瞳を閉じる瞬間。彼女の涙はかつてのクリスタルのようにきらきらと輝いて見えて。


俺の心を優しく溶かした。





おわり

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